
「雑な脚本、キートンは役者でいるべきだった」世界で酷評された映画『殺し屋のプロット』のあらすじ結末までネタバレ解説と海外の感想評価をまとめて紹介する。
本作は、急速に進行する認知症と診断されたプロの殺し屋ジョン・ノックス(マイケル・キートン)が、記憶を失う前に疎遠になった息子を救うため最後の任務に挑む姿を描いたクライム・スリラーだ。時間との戦いの中で、家族への贖罪と自己犠牲を通じた救済のテーマを深く掘り下げている。
ネオノワール・スリラーとして注目を集めた映画『殺し屋のプロット』は原題『Knox Goes Away』で2024年3月15日にサバン・フィルムズより全米劇場公開された。本作はアメリカのクライム・スリラー映画として制作され、2023年9月10日に第48回トロント国際映画祭でワールドプレミア上映された。日本では一部の地域で『A Killer’s Memory』や『Assassin’s Plan』の邦題でも知られている。
監督・製作・主演はマイケル・キートン(代表作『バットマン』『バードマン』)、脚本をグレゴリー・ポワリエが手がけた。主演のジョン・ノックス役をマイケル・キートン、息子マイルズ役をジェームズ・マースデン(代表作『X-MEN』シリーズ)、元妻ルビー役をマーシャ・ゲイ・ハーデン(代表作『ミスティック・リバー』)が演じた。その他重要キャストとして、ザビエル・クレーン役をアル・パチーノ(代表作『ゴッドファーザー』シリーズ)、刑事イカリ役をスージー・ナカムラが出演している。
今回は、マイケル・キートンが16年ぶりに監督を務めた映画『殺し屋のプロット』のラストについて解説していこう。以下の内容は本編の結末の重大なネタバレを含むため、必ず劇場で鑑賞してから読んでいただきたい。 また、認知症の描写や家族間の複雑な感情についても触れるため、注意していただきたい。
もくじ
『殺し屋のプロット』あらすじ結末ネタバレ
ここから先は『殺し屋のプロット』の核心である重大なネタバレを含む。
残酷な診断
プロの殺し屋ジョン・”アリストテレス”・ノックス(マイケル・キートン)は、レストランで相棒のトーマス・”トミー”・マンシー(レイ・マッキノン)と食事中、細かな物忘れがある程度だったが、ついに目の前にあるコーヒーカップを忘れてウェイトレスに新しいコーヒーを注文してしまいマンシーは心配を隠せない。
不安になったノックスは、サンフランシスコの著名な神経科医を訪れ、CTスキャンを受け記憶テストをしたところ「車」という言葉が出てこなかった。医師の診断はクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)=認知症。しかも急速に進行する神経変性で治療法は存在しない厄介なタイプ。さらに悪いことに、医師は「数週間で記憶が完全に失われる」と宣告する
ノックスは引退の準備を始めるが、彼は元妻ルビー(マーシャ・ゲイ・ハーデン)と息子マイルズ(ジェームズ・マースデン)とは疎遠の状態で、日常的に接触があるのは定期的に訪問する売春婦のアニー(ヨアンナ・クーリク)だけだったので死んでも誰にも迷惑をかけることはなく綺麗に足を洗えるのだ。
最後の任務での失敗
ノックスとマンシーは引退前の最後の仕事として、人身売買業者の暗殺任務を受ける。マンシーが見張り、ノックスが標的を殺害するため屋内に侵入し無事にバスルームで標的を見つけるが、標的とは別の女性もいたため2人とも射殺して仕事は完了となる。
しかし突如認知症の影響で動けなくなり安定するまでその場で休んでいたところ、様子を見に来たマンシーを標的と勘違いして射殺してしまう。「マジかよ、ノックス」そう呟きながら死んだマンシーの遺体を見て落ち込んだノックスだったが咄嗟に現場を偽装し、3人が互いに撃ち合って死亡したかのように見せかけて逃走する。
予想外の訪問者
その日の夜、ノックスの自宅の玄関を血まみれの男性が訪れる。認知症の影響で一瞬誰かわからなかったが、何年も会っていなかった息子マイルズだと気がつき家に招き入れると「父さん助けてくれ」と涙を流すのだった。
マイルズは父親に事情を説明する。16歳の娘ケイリー(マイルズの娘でノックスの孫娘)がオンラインで知り合った32歳の男性アンドリュー・パーマーに騙されレイプされ妊娠してしまったこと。事情を知ったマイルズは家に乗り込むがアンドリューは娘を侮辱したためナイフでアンドリューを刺殺してしまったこと。
自分の行為を後悔していないが、その後の対処法が分からず、疎遠だった父親に助けを求めてきたと説明する。
話を聞いたノックスは助けることを約束するが、認知症が隠蔽工作を困難にすることも理解していた。
綿密な計画と証拠隠滅
ノックスは息子を守るため、証拠隠滅と偽装工作を始める。
尾行がないことを確認したノックスはアンドリューの家に入ると現場の完全な清掃は行わず、わざといくつかの証拠を作り保管すると家を後にして、防犯カメラを操作してマイルズとノックスの映像を消去する。
次にノックスは古い友人で元泥棒のザビエル・クレーン(アル・パチーノ)の助けを借りて、完全犯罪のために次々と証拠品の隠滅、指紋の取得、そして証拠の一部をマイルズの家に隠す。
その間も認知症の進行は進み続け、売春婦のアニーの顔、彼女を何のために呼んだのかすらも言葉が出てこなくなり、アニーにも心配されてしまう。
それでもノックスは息子のためにザビエルの指示で隠滅工作を続ける。
警察は人身売買者、女、マンシーの殺害現場、そしてアンドリューの殺人事件の捜査が始まり、その中でも優秀な刑事のエミリー・イカリ(スージー・ナカムラ)はノックスを重要な証拠を持つ容疑者として事情聴取を行うも、事情調査に慣れているノックスは重要なことを伝えず尋問をかわして乗り切る。
自分の名前すらも曖昧になったノックスは元妻ルビーの元をたずね、しばらく長く留守にすること、おそらく大金がルビーに振り込まれることを伝えると、心配するルビーの頭にキスをすして立ち去る。
結末ネタバレ:究極の犠牲
そしてついにザビエルとノックスの計画が始動する。
まずマイルズがアンドリュー・パーマーの家を訪れていた証拠動画が残されており、重要参考人として逮捕されると、マイルズの家の捜査が行われ、アンドリュー殺害とマンシー殺害の証拠が見つかり両方の殺人罪で逮捕される。
記憶がますます混乱するようになったノックスは別荘に隠していた宝石を手に入れて家に戻ると、売春婦のアニーが裏切り仲間たちと待ち構えていた。しかしノックスは強盗たちを全員殺した後、アニーに銃を向けて、元妻と息子と同じぐらいあなたとの木曜日との出会いを大切に思っていたので、財産を分ける1人はアニーだったと伝えながら銃を向ける。
ノックスはザビエルに電話をかける(すでにこの時点でザビエルの名前を忘れている)、ザビエルから指示ノートを燃やしたか念押しされた後「幸運を」と言われ電話を切られる。
次にザビエルは警察に電話をして、ノックスの家に死体があると密告する。警察がノックスがノックスの家を訪れ、転がっている強盗、そして中には本当の証拠が見つかり、強盗の殺人、2件の殺人罪の罪で現行犯逮捕される。
警察はノックスがマイルズに殺人の罪をなすりつけるために証拠を隠したと判断し、マイルズは刑務所から釈放される。それでも煮え切らないエミリー刑事が刑務所へ面会に訪れるがノックスの病状は悪化し、会話が成り立たないため、状況証拠から判断されマイルズは無事に無実が確定する。
マイルズは刑務所で父親を面会に訪れるが、認知症が完全に進行したノックスは息子を認識することができない。
計画は成功した。
マイルズと元妻ルビーはノックスの財産を等分に相続され、助かったアニーの家にはノックスの蔵書が贈られる。
アニーは『二都物語』の本を手に取る(この本は犠牲、復活、社会的激変をテーマとした小説であり、ノックスが家族のために払った究極の犠牲を象徴している。)
ノックスはその後刑務所から医療施設に移され、認知症で記憶を完全に失ったノックスは窓から空虚な表情で外を見ているだけの状態が映し出され物語は終了する。
批評家レビュー
海外の専門批評家による『殺し屋のプロット』の詳細な評価を紹介する。マイケル・キートンの16年ぶりの監督作品として大きな期待を集めた本作だが、批評家の評価は分かれる結果となった。多くの評論家がキートンの演技と演出を評価する一方で、脚本の複雑さと一貫性について厳しい意見も見られる。それでも、認知症というテーマを真摯に扱った意欲的な作品として一定の評価を得ている。
Variety 評価不明
オーウェン・グライバーマン氏「絹のように滑らかで魅惑的なスリラー」
キートンは美しく心理的な演技を提供している。常に殺し屋が何を考えているか、そして彼が精神的混乱の瞬間を補うための繊細な方法を我々に示している。ノックスは最後の任務に向かっているが、それは職業的な依頼ではない。息子を救う必要があり、息子は殺人を犯したばかりだ。脚本家グレゴリー・ポワリエによる脚本は巧妙で独創的であり、キートンは静寂で催眠的な巧妙さと技術で演出している。時に俳優は優れた映画制作者になる。『殺し屋のプロット』において、マイケル・キートンは完全な映画制作者だ。
評価点
キートンの心理的で層のある演技と、静寂で催眠的な演出技術
批判点
複雑な証拠隠滅の過程で、観客が完全に理解するまでに時間がかかる部分がある
The New York Times 評価不明
ジーネット・カツォウリス氏「主人公のように賢く、型破りで、ほぼ強迫観念的に注意深い」
『殺し屋のプロット』は、その反英雄のように、賢く、型破りで、ほぼ強迫観念的に注意深い。その急がないペーシングと静かな熟慮のムードは万人向けではないだろう。しかし、この控えめなスリラーは、その衝撃的に高い賭けを工夫に富んだ知性で解決している。キートンの確実な手腕による演出と開かれた心は、ルーティンかもしれないものを魅力的で、インスピレーショナルで、非常に感動的にしている。
評価点
控えめながら知性的なスリラーとしての完成度と、キートンの確実な演出
批判点
ゆっくりとしたペーシングと熟慮的な雰囲気が一部の観客には退屈に感じられる可能性
(The New York Times – Knox Goes Away)
Los Angeles Times 評価不明
ロバート・アベル氏「ノワール的に楽しめるはずだが、代わりに混乱し馬鹿げている」
『殺し屋のプロット』はノワール的に楽しいホカムであるべきだった。しかし代わりに、脚本家グレゴリー・ポワリエによる以前の時代の無口な男らしさへの賛辞は、機敏で巧妙というよりもむしろ混乱し馬鹿げている。複雑な筋書きはあまりにも巧妙すぎて、映画が不条理なブラックコメディとして意図されていれば面白かったかもしれない。残念ながら、キートンはよりネオノワール的な方向に向かう。
評価点
キートンの真摯な演技と、野心的なテーマへの挑戦
批判点
過度に複雑な脚本と、ジャンルの方向性が定まっていない点
(Los Angeles Times – Knox Goes Away)
The Hollywood Reporter 評価不明
フランク・シェック氏「複雑すぎる筋書きと、あまりにも巧妙すぎる展開」
複雑すぎる筋書きはあまりにも巧妙で、映画が不条理なブラックコメディとして意図されていれば面白かったかもしれない。残念ながら、キートンはよりネオノワール的な方向に向かう。演技陣は全体的に素晴らしく、特にキートンと若手俳優たちの化学反応は印象的だが、脚本の欠陥が作品全体の評価を下げている。それでも、キートンの演出手腕は確実で、将来への期待を持たせる内容となっている。
評価点
キートンの確実な演出手腕と、全体的に優秀な演技陣
批判点
複雑すぎる脚本構造と、ジャンル的な方向性の曖昧さ
(The Hollywood Reporter – Knox Goes Away)
IndieWire C-
エスター・ザッカーマン氏「映画が何であるべきかを確信していない印象」
『殺し屋のプロット』が何であるべきかを確信していないという感覚を受ける。一方では冷酷に不気味なものに傾倒し、他方では自身のシナリオの厳しさを笑いたがっている。キートンの演技は素晴らしく、認知症の進行を丁寧に描写しているが、映画全体のトーンが一貫していない。作品は深刻なドラマとブラックコメディの間で揺れ動き、どちらの要素も中途半端になってしまっている。
評価点
キートンの認知症患者の演技の真摯さと、映画的な野心
批判点
ジャンル的な方向性の混乱と、一貫性を欠くトーン
RogerEbert.com 1/4
ロバート・ダニエルズ氏「見た目があまりにも下品で、欠陥が許されない」
これらの明らかな欠点と不器用な間違いは、この映画がこれほど見た目に下品でなければ許されるかもしれない。平坦な撮影と不格好なカットが、キートンが数人の悪党を倒すために自分を配置する数少ない瞬間を台無しにしている。キートンは演技において優れているが、監督としての技術的な側面で課題を抱えており、特に撮影と編集において改善の余地がある。
評価点
キートンの献身的な演技
批判点
技術的な面での未熟さ、特に撮影と編集の質の低さ
(RogerEbert.com – Knox Goes Away)
個人的な感想評価:50点
ちょっと複雑すぎて疲れた。
冒頭からノックスが証拠隠滅を図るが、その後もずっと証拠隠滅し続け、その間に他の背景の説明、証拠隠滅、新しい登場人物登場、証拠隠滅、そしてラスト。
ラストで何のためにあんなことをしたのか?が明らかになるが、それまでは何してんだ?とか、アニーとか家族、マイルズの逮捕とか、娘のことで暴行しちゃったり色々なことが分散していて、まとまりが悪い印象を受けた。認知症で証拠を残したと思ったら、それはわざとでしたとか最後に言われても、なんか、うーん、今までのドキドキと考察時間返してくれる?って感じで映画に裏切られた感が残った。
でもマイケル・キートンの演技は凄まじく、認知症で徐々に記憶を失っていく演技は映画の中での大黒柱として機能しており、見ているこっちがおじいちゃん大丈夫かよ!ってずっと緊張感を持って楽しむことができた。最後のザビエルの名前すらも忘れたところで少し泣きそうになり、最後は完璧に虚空を見つめる表情はグッときた。
が、結局骨子の部分である、認知症のノックスはなんで最後に仕事したんだ?とか、何で家族に金残すのが最後の贖罪とか言われても、散々好き放題やって、金のために人殺しまくった人が、認知症になったから反省して家族のために動きます。とか遅すぎないか?とか一方的すぎじゃね?とか色々とツッコミどころがありすぎて、最終的には微妙だったな。という着地点に。
『殺し屋のプロット』は、マイケル・キートンの監督・主演作品として意欲的なテーマに挑戦した作品だが、結果的には野心と実現力のバランスが取れていない印象を受けた。
まとめ
この記事では、映画『殺し屋のプロット』の物語結末までの完全ネタバレ解説から海外の感想評価まで詳しく紹介した。マイケル・キートンの16年ぶりの監督作品として注目を集めた本作は、批評家スコア66%、観客スコア84%という評価を獲得し、特に一般観客から高い支持を得た。
Rotten Tomatosでは「マイケル・キートンがマイケル・キートンを監督し、自分自身から素晴らしい演技を引き出している——ただし、物足りない脚本に取り残されている」という総評を受けた一方で、観客レビューでは「キートンが最高」「結末を全く予想できなかった」「見るべきミステリー映画」といった高い評価が目立った。
海外では認知症を患う殺し屋という独特の設定と、キートンの心理的で層のある演技が評価された一方で、「複雑すぎる脚本」「ジャンル的方向性の曖昧さ」「技術的な未熟さ」といった批判も見られた。それでも、家族の絆と最終的な自己犠牲を通じた贖罪というテーマを真摯に描いた意欲作として、多くの映画ファンに印象を残す作品となった。特に、実在するクロイツフェルト・ヤコブ病を扱いながら、エンターテインメントと人間ドラマを両立させた点は、今後のキートンの監督作品への期待を高める結果となっている。
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