
「この映画は単なるカミングアウト・ストーリーではなく、自分の声を見つけ、自分自身に忠実であることについての物語だ」という海外レビューが示すように、2016年公開のアイルランド映画『ハンサム・デビル(原題:Handsome Devil)』のあらすじ結末までネタバレ解説と海外の感想評価をまとめて紹介する。
『ハンサム・デビル』は日本ではNetflixで『ぼくたちのチーム』として配信されたが、すぐに配信停止となり鑑賞ができない状況である。
本作は、アイルランドの名門全寮制男子校を舞台に、音楽と文学を愛する孤独な少年ネッド(フィオン・オシー)と、新しく転校してきたラグビーのスター選手コナー(ニコラス・ガリツィン)の予想外の友情を描いた青春映画だ。ラグビーが宗教的な存在として崇拝される学校で、2人の少年が偏見と戦いながら真の自分を見つけていく姿を感動的に描いている。
青春コメディ・ドラマとして注目を集めた映画『ハンサム・デビル』は2017年4月21日にアイルランドで劇場公開された。本作はアイルランド・イギリス合作のLGBTQ+テーマの映画として制作され、2016年トロント国際映画祭のコンテンポラリー・ワールド・シネマ部門でワールドプレミア上映された。
監督・脚本はジョン・バトラー(代表作『The Stag』2013年)、主演のネッド・ロッシュ役をフィオン・オシー、コナー・マスターズ役をニコラス・ガリツィン(代表作『シンデレラ』2021年)が演じた。その他重要キャストとして、英語教師ダン・シェリー役をアンドリュー・スコット(代表作『シャーロック』)、ラグビーコーチのパスカル役をモー・ダンフォードが出演している。
今回は、ダブリン映画批評家協会賞で2017年最優秀アイルランド映画賞を受賞した『ハンサム・デビル』のラストについて解説していこう。以下の内容は本編の結末の重大なネタバレを含むため、必ず作品を鑑賞してから読んでいただきたい。 また、ホモフォビア(同性愛嫌悪)や学校でのいじめの描写についても触れるため、注意していただきたい。
もくじ
『ハンサム・デビル』あらすじ結末ネタバレ
ここから先は『ハンサム・デビル』の核心である重大なネタバレを含む。
孤独な少年と転校生
アイルランドの名門全寮制男子校ウッドヒル・カレッジに通うネッド・ロッシュ(フィオン・オシー)は、赤く染めた髪と鋭い機知、音楽と詩への深い愛情で知られる16歳の少年である。
ウッドヒル・カレッジは男子校ということもありラグビーに熱狂的よりも狂信的で、物静かなネッドは完全に浮いた存在でいじられまくる日々を過ごしている彼にとってこの学校に居場所はないと感じており、退学になることを望んでいた。結局のところ父親と継母に邪魔者扱いされ無理やり入学させられた彼にとって、この学校は地獄のような場所なのだ。
そんな中、前の学校で喧嘩を繰り返し退学処分となったコナー・マスターズ(ニコラス・ガリツィン)がウッドヒルに転校してくる。コナーは卓越したラグビーの才能を持つ静かで落ち着いた青年で、学校は即座に彼を新たなスター選手として歓迎する。しかし運悪く、コナーはネッドとルームメイトとして同室になってしまい、コナーに会いに来る仲間たちによって自身の部屋すら居場所が失われてしまうのだった。
ネッドは居場所を確保するため部屋の中央に本棚を置いて部屋を仕切り「←ネッド|彼→」と仕切って何とか生活を続ける。
理解ある教師の登場
新学期と同時に、新しい英語教師ダン・シェリー(アンドリュー・スコット)が赴任してくる。シェリー先生は型破りな教育方針で生徒たちに文学の美しさを教え、特にネッドの才能を見抜いたシェリー先生はネッドの才能を見抜きちょいちょい部屋を訪れるようになる。彼の印象的な言葉「借り物の声で話すな。一生他人になっていたら、誰があなたになるのか?」は、生徒たちの心に深く響き即座に人気教師となっていく。
コナーもラクビーの才能を嫉妬する仲間に反則のタックルを受けるが、即座にボコボコに殴り返すものの、ラグビー狂のコーチ・パスカル(モー・ダンフォード)は、そんな瑣末なことは気にするなとコナーの暴行は見て見ぬふりをして、今季の優勝を目指す。
コナーとネッドは全く正反対の性格というわけではなく、ネッドの詩の才能について理解を占めすと互いに共通の音楽の趣味があることをきっかけに徐々に距離が縮み始め、看板はいつの間にか「←ネッド|腕立て伏せ→」に変わり、ネッドの秘密の音楽鑑賞コーナーで友情を深めるとネッドの手により壁は取り払われる。
ネッドとコナーは共通する音楽への愛を通じて次第に心を通わせて、2人はバンドを結成し、ライブに出場することを決意する。前から根暗なネッドと才能のあるコナーの友情を快く思わないパスカルコーチはコナーを呼ぶと、ネッドは同性愛者だから付き合うな、男ならあんな奴と付き合うな、と古い価値観を押し付けてくるのだった。
結末ネタバレ:真実と受容
それでもネッドと付き合うコナーに対し「ラグビーか音楽か」選べと迫り、ネッドに対しては露骨な嫌がらせを始め、根も歯もない噂を流したことで生徒たちもネッドを「ホモ野郎」と呼んでいじめ、学校全体がホモ嫌悪症に支配された雰囲気となったいく。
ある夜、コナーを見つけたネッドは彼を追いかけるが、彼が入ったバーは「ゲイ専用」バーで、ネッドは驚く。
ライブが始まるが、コナーは現れなかった。最後まで待ち続けたネッドだったが、出番がきてしまい1人で歌を披露する。コナーが不良生徒たちと遊んでいることを知ったネッドがコナーに会いにいくが、ネッドを見つけた不良たちはネッドに対しホモ野郎は帰れと連呼し、コナーもネッドを見つけると「近寄るなホモ」と突き飛ばす。
ラグビー決勝前夜祭でネッドは皆の前でコナーはゲイだと勝手にカミングアウトする。
それを知ったパスカルはコナーをレギュラーから外し、コナーは再び行方不明になる
決勝戦の日、ネッドは彼を見つけ出し「ゲイだからなんだ?」説得し一緒にスタジアムに向かう、ロッカーで集まるチームメイトとパスカルに対し「コナーはゲイでありながら、同時に優秀なラグビー選手でもあり得る」と主張する。この勇気ある発言に触発されたチームメイトたちはコナーを支持し、最終的にパスカルも譲歩せざるを得なくなり、コナーはレギュラーとしてスタジアムに立つ。
チームは最終的に決勝戦に勝利を収め、同時にシェリー先生も校長の前でボーフレンドを紹介してカミングアウトする。ネッドは学校に戻り、コナーとの友情をテーマにした「ハンサム・デビル」と題されたエッセイで英語作文コンクールに優勝する。
映画は希望に満ちた結末を迎える。ネッドとコナーの友情は試練を乗り越えてさらに強固になり、2人とも自己受容と他者からの受容という貴重な教訓を学んだ。学校も徐々により包容力のある環境へと変化し、違いを認め合う未来への希望が示される。
最後のシーンでは、ルーファス・ウェインライトの楽曲「Go or Go Ahead」が流れる中、コナーが新たな自信を持ってラグビー場に戻ってくる姿が映し出される。
批評家レビュー
海外の専門批評家による『ハンサム・デビル』の詳細な評価を紹介する。アイルランド発のLGBTQ+青春映画として期待されたが、多くの批評家がこの作品を『デッド・ポエツ・ソサエティ』の現代版として評価し、同時に独自の魅力と深いメッセージ性を認めている。伝統的な青春映画のフォーミュラを踏襲しながらも、現代的なテーマを巧みに織り込んだ作品として高く評価されている。
Village Voice 評価不明
クレイグ・D・リンゼイ氏「フィール・グッド・メッセージ映画とゲイ・パニックのバーレスクの間を行き来する」
『ハンサム・デビル』は、10代の若者が大人の期待にさらされる素晴らしい描写を提供している。常に強く、成功し、そして従順であれという期待だ。そしてその中から抜け出す方法を示している。非常に優秀なキャストが揃っており、バトラーはネッドの物語を皮肉なユーモア感覚で語り(オシーは常に当惑した表情を浮かべている)、前向きなメッセージングが大きく明確に伝わってくる。
評価点
若手俳優フィオン・オシーの自然で魅力的な演技と、アンドリュー・スコットの深みのある教師役が特に印象的
批判点
一部のプロット展開が予測可能で、典型的なフィール・グッド映画の枠を完全には超えられていない
(Village Voice – Handsome Devil)
Common Sense Media 4/5
批評家名「10代に最適で、家族での鑑賞を強く推奨」
テーマや筋書きは馴染みのあるものかもしれないが、演技、洞察、そして映画製作のスキルはそうではない。ルーティンかもしれないものが魅力的で、インスピレーショナルで、非常に感動的になっている。10代の俳優たちは一様に素晴らしく、オシーとガリツィンはあなたを笑顔にさせ、心を打ち砕くだろう。教師ダン・シェリー役のアンドリュー・スコットは、従来的なキャラクターだったかもしれないものに深みを与えている。脚本家ジョン・バトラーは確実な手腕と開かれた心で監督している。
評価点
若手俳優たちの一様に素晴らしい演技と、アンドリュー・スコットの深みのある教師役の描写
批判点
悪役が浅く、結末が最終的に予測可能だが、それでも十分な驚きとニュアンスで作品を特別なものにしている
(Common Sense Media – Handsome Devil)
Birth.Movies.Death 評価不明
ジョーイ・キーオ氏「個人的な体験に基づいた真摯で心のこもった青春映画」
何度も様々な形で見たことのある前提だが、脚本・監督のジョン・バトラーは、大量のアイルランドのユーモアと勇敢で真の心と感情のたっぷりとした助けを得て、自分自身の非常に個人的な解釈を注入している。映画は感情的に操作的になることもあり、視聴者の同情を得るために馴染みのあるトリックを引っ張るが、キャラクターと対話がとても魅力的なときは許しやすい。ボイスオーバーとスプリットスクリーンの使用は常に効果的ではなく、時には映画から注意をそらすが、全体として『ハンサム・デビル』は魅力的で見やすい楽しみだ。
評価点
アイルランドのユーモアと真摯な感情表現、魅力的なキャラクターと対話
批判点
一部の映画技法が効果的でなく、感情的操作に頼りがちな部分がある
(Birth.Movies.Death – Handsome Devil)
Queer.Horror.Movies 3.5/5
ジョー・リプセット氏「制度化されたホモフォビアを独特の方法で強調する衝撃的な映画」
何よりも、実際にゲイであることが明かされるキャラクターが、映画製作者と問題の俳優たちの両方によって、これ以上ないほど爽やかに描かれている。『ハンサム・デビル』は、ほとんどの映画が選択しない方法で制度化されたホモフォビアを強調する独特に衝撃的な映画だ。この映画は本質的にLGBTQ+コミュニティの現実を描きながら、同時により広い包容性のメッセージを伝えている。
評価点
LGBTQ+キャラクターの爽やかで肯定的な描写と、制度的差別への鋭い視点
批判点
一部のプロット展開が予測可能で、より実験的なアプローチがあれば良かった
個人的な感想評価
思ったよりも軽めな青春映画で、典型的なゲイカミングアウトの流れ、アイルランドも比較的同性愛に対して受け入れ難い風土があり、そこでもがき悩む生徒たちの物語を春風のように映像化してくれたおかげで最後までこちらも傷つくこともなくあっさりと楽しみ終えることができた。
『ハンサム・デビル』は、青春映画の古典的な内容ながら、現代的なLGBTQ+のテーマを自然に織り込んだ作品として見応えはある。フィオン・オシーとニコラス・ガリツィンの2人の若手俳優の化学反応は見事で2人がいなければこの危ういテーマを扱ったこの作品は評価されなかっただろう。
しかし、多くの批評家が指摘するように、物語の展開は予測可能で、特に後半のクライマックスは典型的なフィール・グッド映画の定石から外れていない。それでも、アイルランドの全寮制学校という特殊な環境設定と、ラグビー文化への鋭い観察、そして監督自身の体験に基づく真摯な描写が作品に独特の説得力を与えている。最終的に、この映画は「違い」を受け入れることの大切さを、説教的にならずに美しく描き上げた優れた青春映画として記憶に残る。
まとめ
この記事では、映画『ハンサム・デビル』の物語結末までの完全ネタバレ解説から海外の感想評価まで詳しく紹介した。アイルランド発のLGBTQ+青春映画として大きな期待を集めた本作は、批評家スコア84%、観客スコア84%という高評価を獲得し、多くの観客に愛され続けている。
Rotten Tomatosでは「チャーミングで巧妙に演技された成長物語のバリエーションで、いくつかの新鮮な話題のひねりを加えている」という総評を得て、特に2人の若手主演俳優の演技とアンドリュー・スコットの深みある教師役が絶賛された。一方で「物語がプログラム的で結末が予測可能」という批判もあったが、多くのレビューで「心温まる」「感動的」「励みになる」作品として評価されている。
海外では「現代版『デッド・ポエツ・ソサエティ』」「LGBTQ+青年の希望の物語」として受け取られ、特にアイルランドの私立学校制度における偽善と差別を鋭く描いた社会派青春映画としても注目を集めた。監督のジョン・バトラーが自身の1980年代の学校体験に基づいて製作した本作は、普遍的なテーマを扱いながらも個人的な真実に根ざした説得力ある物語として、今後も多くの若者に勇気を与え続ける作品となるだろう。
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