
「2025年最高の心を打ち砕く映画」と評された映画『ハムネット/HAMNET』のあらすじ結末までネタバレと海外の感想評価をまとめて紹介する。アメリカとイギリスで制作された本作は原題『Hamnet』で2025年8月29日にテルライド映画祭で初上映され、IMDb8.1点、Rotten Tomatoes批評家86%・観客93%、Metacritic84点と高評価を獲得した歴史ドラマ作品だ。トロント国際映画祭では観客賞を受賞し、2026年ゴールデングローブ賞ではドラマ部門作品賞と主演女優賞を受賞した。
16世紀末のイングランドで、ウィリアム・シェイクスピアとその妻アグネスが11歳の息子ハムネットをペストで失う。若き劇作家として成功を収めつつあったウィリアムと、森の癒し手として知られるアグネス。二人の恋愛、結婚、子育て、そして突然訪れる悲劇によって引き裂かれる夫婦の絆が描かれる。森や自然との神秘的な繋がりを持つアグネスと、言葉による表現を追求するウィリアムは、同じ喪失を全く異なる方法で受け止めることになる。
本作の監督はアカデミー賞作品賞・監督賞を受賞した『ノマドランド』を作ったクロエ・ジャオ、アグネス役を『ロスト・ドーター』のジェシー・バックリー、ウィリアム・シェイクスピア役を『グラディエーター II/英雄を呼ぶ声』のポール・メスカルが演じた。
今回は、異色作として注目を集める映画『ハムネット/HAMNET』のラストまで詳細に解説&考察と、海外ではどのような評価を受けているのか?を紹介していきたい。以下の内容は本編の結末のネタバレを含むため、必ず劇場で鑑賞してから読んでいただきたい。
『ハムネット/HAMNET』あらすじ結末ネタバレ
ここから先は『ハムネット/HAMNET』の核心である重大なネタバレを含む。16世紀イングランドを舞台に、シェイクスピア夫妻が息子の死という悲劇に直面し、その喪失が芸術作品へと昇華される過程が描かれるため、鑑賞前の閲覧は避けることを強く推奨する。
ウィリアム・シェイクスピアと森の魔女
映画の冒頭、16世紀後半のストラットフォード・アポン・エイヴォンにて、「ハムネット」と「ハムレット」は当時同じ名前として扱われていたという字幕が表示される。
森の中を歩く美しい女性アグネス・ハサウェイ(ジェシー・バックリー)が、鷹匠用の手袋をはめた手に飼っている鷹を止まらせる場面から物語は始まる。屋敷からその様子を見ていたラテン語の家庭教師のウィリアム・シェイクスピア(ポール・メスカル)は生徒たちに自習を申しつけアグネスの後を追う。
彼はアグネスに近づき名前を尋ね、鷹に触れようとするが鷹はウィリアムの指を軽く噛んでしまう。アグネスはそれを愛情の印だと告げると二人はキスを交わし、ウィリアムは立ち去っていく。
アグネスとウィリアムは共に家族との間に問題を抱えていた。アグネスの父は義母ジョーン(ジャスティン・ミッチェル)と再婚し、連れ子のバーソロミュー(ジョー・アルウィン)とは親しくなったが、嫌味っぽいジョーンとは上手くいっていない。
ウィリアムは手袋職人の父ジョン(デヴィッド・ウィルモット)と母メアリー(エミリー・ワトソン)、そして妹弟のエライザ(フレイア・ハナン=ミルズ)、エドモンド(デイントン・アンダーソン)、リチャード(エリオット・バクスター)と暮らしている。厳格な父は自分たちとは違う野心を持ったウィリアムに対し頻繁に虐待を加え、ウィリアムは我慢を強いられていた。
森の魔女とハムネット
その後ウィリアムは森でアグネスを探し出すと、新しい手袋を贈ろうとするが、彼女は既に持っていると答え拒否する。なんとかアグネスと仲良くなりたいウィリアムがどうすれば良いのかと尋ねると、アグネスは彼に物語を語って欲しいと伝えるのだった。
少し考えたウィリアムは喜んでとばかりにアグネスに”オルフェウスとエウリュディケーの悲劇的なロマンス”を語り聞かせる。好奇心を満たしてくれたお礼にとアグネスは亡き母親ロウワン(ルイーザ・ハーランド)から学んだ薬草を用いてウィリアムの額の傷を治療し、再び無言でキスを交わすのだった。
二人は肉体関係を持つとやがてアグネスが彼の子供を妊娠していることが発覚すると、バーソロミューが彼女をシェイクスピア家に連れて行き妊娠を報告する。唐突な報告にメアリーはジョンに怒りをぶつけるが、バーソロミューとジョンは二人が結婚することを合意する。
二人は結婚し、アグネスは森の中で女の子、スザンナを出産した。
ウィリアムは父親のために手袋職人として働き続けたが、度重なる暴力にうんざりしついに父に反撃してしまう。しかし職を失うが執筆に集中し始めたものの、先の見えない不安を隠すように飲む酒の問題も抱えるようになり、精神的に不安定になっていくウィリアムはアグネスの心配を無視して大声で叫び赤ん坊を起こしてしまう。
そこでアグネスはロンドンにいる知り合いの劇場関係者のもとで仕事を得るよう勧め、ウィリアムは第二子を妊娠中のアグネスと長女スザンナを残し、ロンドンへと旅立つのだった。
アグネスが再び出産の時を迎えいつも通り森で子供を産もうとするが、ウィリアムの母メアリーがそれを止め、エライザと二人でアグネスの出産の世話を全面サポートする。今回の出産は苦痛を伴うもので死を予感したアグネスは母親が死んだ時の記憶を思い出し朦朧とする中、なんとか男の子ハムネットを産むが、そこでお腹の中にもう一人いることが発覚し、女の子アグネスを産む。あとから生まれた女の子は息をせず死産だと告げられるがアグネスが抱きしめると奇跡的に自発呼吸を始めアグネスは赤ん坊を抱きしめて語りかけ女の子にジュディスという名前を授けるのだった。
11年後の幸福な日々と感染症
11年後、ハムネット(ジェイコビ・ジュープ)とジュディス(オリヴィア・ライネス)は服を交換して両親と長女スザンナ(ボディ・レイ・ブレスナック)をからかう悪戯をするほど元気に育っていた。ウィリアムの執筆と演劇の仕事が順調なのか暗い影はなくなり朗らかになり、自身の持つ演技の知識を子供達に惜しみなく愛と共に与え、子供たちは演劇好きに育ち、母アグネスの前で皆で演劇を披露するなど、あたたかく幸せな日々を過ごしていた。
ある日、アグネスの鷹を森に埋葬した後、ロンドンでの演劇脚本の仕事を続けるために家族に別れを告げる。
ロンドンに到着したウィリアムは、現在世に蔓延していた感染症”ペスト”が黒い怪物となって人々を殺していく不吉な人形劇を目にする。
その頃、ジュディスがペストに感染していることが発覚する。アグネスがジュディスの看病をしている間、ハムネットは妹の傍らに横たわると、神に向かって妹ではなく自分を連れて行くよう懇願し続ける。
アグネスの薬草の知識を献身的な看病のおかげでジュディスは奇跡的に回復するが、今度はハムネットが感染し激痛に苦しみ始める。アグネスはハムネットの看病に尽くしたが、ハムネットは誰もいない家で自分の姿を見て呼んでいる母アグネスの幻覚を見たあと、最後の力を振り絞り手を握るとハムネットは母親の腕の中で息を引き取る。
結末ネタバレ:
アグネスは苦悶の叫びを上げ、スザンナとジュディスが弟の遺体を目にすることになった。後にウィリアムが戻ってきて、ハムネットの遺体を見て「俺の息子だ…」とつぶやくことしかできなかった。
後日、アグネスはハムネットの死を自分のせいだと責め、ウィリアムはどうすることもできなかったと慰めると、アグネスが見えてきた不思議なヴィジョンが見えなくなったと語る。
ロンドンで、ウィリアムは新しい戯曲に取り組み始めているが、練習中の主演俳優(ノア・ジュープ)の演技に情熱が足りないと感情的に叱責する。夜になりテムズ川のほとりで佇むウィリアムは川に飛び込もうかと考えながら静かに「生きるべきか、死ぬべきか…」とつぶやくのだった。
ある日、ジョーンがアグネスと娘たちを訪れ、ロンドンでウィリアムが作った新作『ハムレットの悲劇』が上映するそうだとパンフレットを渡して立ち去る。アグネスはバーソロミューとともにロンドンへ向かい、大勢の観客とともに夫の上演を観る。
ハムレット王の悲劇の大まかなあらすじ
デンマークの王子ハムレットは、父王が急死し、叔父クローディアスが王位に就いて母ガートルードと結婚したことに動揺している。ある夜、父の亡霊が現れ、クローディアスに毒殺されたと告げ、復讐を求める。
ハムレットは復讐を誓うが、行動を起こせず苦悩する。真実を確かめるため、劇中劇で父の殺害場面を再現し、クローディアスの反応から罪を確信する。
しかし復讐の過程で、恋人オフィーリアの父ポローニアスを誤って殺してしまい、オフィーリアは狂気に陥り入水自殺する。オフィーリアの兄レアティーズはハムレットに復讐を誓う。
クローディアスはレアティーズと組み、毒を塗った剣での決闘を企てる。決闘でハムレットとレアティーズは互いに毒剣で傷つき、ガートルードは毒杯を飲んで死ぬ。死の間際、レアティーズはクローディアスの陰謀を暴露し、ハムレットはついにクローディアスを殺すが、自らも毒で命を落とす。
上演中、アグネスは脚本がハムネットの死を軽んじていると考え何度も叫び中断させてしまうが、上演が進むにつれ、アグネスはそれが息子への追悼であることに気づいていく。
ウィリアムがハムレットの父の亡霊役を演じる場面で、ウィリアムは再び自分の息子とともにいるかのように感情を込めて演技をする。
出番を終えたウィリアムが舞台裏に戻ると、ハムネットのことを想い大泣きする。
劇が終わりに近づき、ハムレットが死ぬと、観客たちは彼に向かって手を伸ばし、最後の言葉を聞いた。
最前列でハムレットの全てを見届けたアグネスは確かに舞台にいるハムネットの姿を見て、彼が自分を見て微笑む姿を確かに見た。
そして彼は舞台裏へ消えていくのを確かに見た。
アグネスは微笑み、笑い、涙を浮かべるシーンで物語は終了する。
引用元:The Movie Spoiler – Hamnet
『ハムネット/HAMNET』作品情報
『ハムネット/HAMNET』の制作を手がけた監督と出演俳優、作品の基本情報について紹介する。
興行収入
本作は2025年11月26日にアメリカとカナダで限定公開され、12月5日に全国拡大公開された。初週末の興行収入は約150万ドルで、アートハウス系作品としては好調なスタートを切った。イギリスでは2026年1月9日に公開され、初週末に420万ドルを記録し、今年のドラマ作品として最高のオープニング成績を収めた。アメリカでは累計700万ドル以上の興行収入を達成している。
クロエ・ジャオ監督情報

クロエ・ジャオは1982年3月31日に中国・北京生まれの映画監督だ。2015年のデビュー作『サンダンス・キッド』でサンダンス映画祭に出品され注目を集めた。
2017年の『ザ・ライダー』ではカンヌ映画祭監督週間部門で芸術映画賞を受賞し、インディペンデント・スピリット賞の作品賞と監督賞にノミネートされた。2020年の『ノマドランド』では、アカデミー賞作品賞・監督賞・主演女優賞を獲得し、ゴールデングローブ賞監督賞、英国アカデミー賞作品賞・監督賞を受賞した。
ジャオは有色人種女性として初めてアカデミー監督賞を受賞し、女性としては二人目の快挙を成し遂げた。2021年にはマーベル・シネマティック・ユニバースの『エターナルズ』を監督した。本作『ハムネット/HAMNET』は、彼女が再び人間ドラマに回帰した作品として高い評価を受けている。
アグネス役「ジェシー・バックリー」情報

ジェシー・バックリーは1989年12月28日にアイルランド・キラーニー生まれの女優だ。BBCの『ウォー・アンド・ピース』や『タブー』などのテレビシリーズで注目を集め、映画では『ワイルド・ローズ』で主演を務めて高い評価を得た。2021年の『ロスト・ドーター』ではアカデミー助演女優賞にノミネートされ、同年の『アイム・シンキング・オブ・エンディング・シングス』でも批評家から絶賛された。
2022年の『ウーマン・トーキング 私たちの選択』では、アンサンブル演技が評価された。本作『ハムネット/HAMNET』では初めて主演女優賞の候補に挙がり、2026年ゴールデングローブ賞ドラマ部門主演女優賞を受賞した。バックリーはその生々しく感情的な演技で知られ、複雑な女性キャラクターを演じることに定評がある。
2026年3月6日に1930年代のシカゴで起きるクリスチャン・ベールが演じるフランケンシュタインの花嫁役として改造されたヒロインを演じる『The Bride!』の公開が予定されている。
ウィリアム・シェイクスピア役「ポール・メスカル」情報

ポール・メスカルは1996年2月2日にアイルランド・メイヌース生まれの俳優だ。2020年のテレビドラマ『ノーマル・ピープル』で国際的な注目を集め、エミー賞主演男優賞にノミネートされた。映画デビュー作となった2022年の『aftersun/アフターサン』では父親役を演じ、アカデミー主演男優賞候補となった。
2023年の『オール・オブ・アス・ストレンジャーズ』では繊細な演技を披露し、2024年の『グラディエーター II/英雄を呼ぶ声』では主演を務めた。本作『ハムネット/HAMNET』では、若きウィリアム・シェイクスピアという歴史的人物を演じ、喪失の痛みを内に秘めた演技が高く評価されている。メスカルは悲しみと苦悩を抱えた男性役を得意とし、感情の深みを表現する俳優として知られている。
海外の感想評価まとめ
本作は海外でどのような評価を受けているのか。海外での総合的な評価を紹介後、なぜこの評価になったのか?海外レビュアーたちの評価を見ていこう。
IMDb(総合評価:8.1/10)
①今年のお気に入りの映画だ。素晴らしい脚本で、泣ける映画だった。ここ数年で最も感情的になった作品だ。ジェシー・バックリーとポール・メスカルの演技は今世紀最高のパフォーマンスの一つだし、子役の演技も今まで見た中で最高のものだった。愛と喪失についての映画で、すべての要素が完璧に調和している。
②トロント国際映画祭で鑑賞したが、喪失、ロマンス、絆、家族、そしてシェイクスピア一家を取り巻く世界についての美しく感情的で生々しい物語だった。クロエ・ジャオは雰囲気、執筆、キャラクター、トーンにおいて素晴らしい演出をしている。ポール・メスカルとジェシー・バックリー、そして他のキャストの演技も素晴らしかった。
③映画は耐え難い喪失に直面したカップルの人生を観察することで、彼らの問題、目標、そして二人の間に集まる感情を描いている。対話は良く、音楽も素晴らしく、脚本は一部概念が完全には機能しなかった部分もあるが、魅力的で興味深く、探求すべき素晴らしいテーマを提供していた。
④この映画は地獄のような感情的な旅に連れて行く。映画館を出た後にこんな気持ちになるとは予想していなかった。力強く打ちのめされるような体験で、時には感情のジェットコースターだ。ウィリアムとアグネス・シェイクスピアは子供ハムネットを失った後の悲しみに苦しむが、人生は悲しみのために立ち止まってくれない。
Rotten Tomatoes(批評家:86% / 観客:93%)
①心を打ち砕き、同時に癒してくれる作品で、ジェシー・バックリーとポール・メスカルの驚異的な演技により、シェイクスピアの傑作の背後にあるインスピレーションを説得力のある感情の力で描き出している。本作は愛と喪失の力強い物語であり、芸術を通じた癒しの可能性を示している。
②クロエ・ジャオが描く深い悲しみへの心を揺さぶる旅だ。本作はあなたを完全に打ちのめすだろう。ジャオは悲しみ、愛、そして希望といった普遍的な人間の感情を、時代を超えて描き出している。イングランドの田園地帯はまるで生きているかのように家族を静かに見守り、物語は何世紀を経ても人間の感情は変わらないことを示している。
③心を打ち砕く、幽玄で美しい作品だ。クロエ・ジャオはマギー・オファレルの小説を見事に映画化した。プロダクションは素晴らしく、衣装は歴史的に正確で、照明も非常によくできている。ポール・メスカルとジェシー・バックリーは壮大な演技を披露した。唯一の不満は、魔女的な要素がもう少し抑えられていればよかったという点だが、それ以外は素晴らしい作品だ。
Metacritic(総合評価:84/100)
①この映画は壊滅的で、おそらくここ数年で見た中で最も感情的に心を打ち砕く作品だ。ジャオ監督は、世界に新しい方法で喪失を感じさせ、手放すことで私たち全員の中にある根本的な何かを解放している。作品は芸術がいかに重要か、何かを見ることがいかに感じさせ、理解させ、考えさせるかを思い出させてくれる。
②愛と悲しみについての思慮深い瞑想であり、ポール・メスカルとジェシー・バックリーのキャリア最高の演技を特徴とし、ジャオの最も親密な作品となっている。映画が残すのは悲しみではなく喜びだ。死の容赦なさに対して芸術、愛、あるいは単に生き続けるという基本的な行為を通じて立ち向かう人間の能力への喜びだ。
③グローブ座での『ハムレット』の上演シーンを舞台にした結末は、痛ましく、意味深く、壮大に悲しい。「やめて!」と叫びたくなるかもしれない。これは即座に、本質的なシェイクスピア映画となった。ジャオは芸術の癒しの力について語るだけでなく、それを示してくれる。
批評家レビュー
海外批評家の詳細な評価を見ていこう。
Variety 100点
ピーター・デブルージュ氏「感情的にほとんど耐え難いほど生々しい」
本作は喪失の恐怖と深い悲しみを正面から描いた作品だ。ジェシー・バックリーは英雄的な演技でシェイクスピアの妻アグネスを演じており、彼女は子供たちの母親であるだけでなく、私たち全員の母のような存在として描かれている。地に足のついた、ほとんどシャーマン的な精神を持つ女性が、息子ハムネットの死を受け入れることを余儀なくされる姿が描かれる。ジャオ監督は理解できないものへの集団的な恐怖、つまり海、森、そして私たちの女性的な側面である影の部分のバランスを取ろうとしている。これは美しく、急進的で、危険な行為だ。
評価点
ジェシー・バックリーの生々しく感情的な演技が圧倒的だ。ジャオ監督は叙情的でテレンス・マリック風のスタイルを選択し、自然界とその住人との繋がりをロマンチックに描き出している。映画は喪失を新しい方法で感じさせ、手放すことで私たち全員の中にある根本的な何かを解放する。
批判点
世界がこの作品を受け入れる準備ができているかは不明だ。ジャオ監督自身もこれに取り組む準備ができていたか分からない。映画は私たちが不信感を抱くよう教えられてきた、私たち自身の一部に語りかけてくるため、観客によっては受け入れがたい部分もあるだろう。
The Hollywood Reporter 90点
アンジー・ハン氏「喜びと恐怖、愛と喪失が表裏一体」
『ハムネット/HAMNET』では、喜びと恐怖、愛と喪失が常に表裏一体となっている。一つがもう一つを生み出すサイクルは、生命そのものと同じくらい古く、避けられないものだ。しかし、彼女のウィリアム・シェイクスピア(ポール・メスカル)がこの二つの間に捕らわれた痛みを傑作『ハムレット』へと変えたように、ジャオ監督はこれらの要素を豪華でカタルシスに満ちた何かへと昇華させている。最初にウィリアムがアグネスを見たとき、彼女は森からの旅から帰ってきたところだった。
評価点
ジャオ監督の視覚的な美学が作品の最大の魅力だ。撮影監督ウカシュ・ジャル、作曲家マックス・リヒター、音響デザイナーのジョニー・バーンと協力し、あらゆることが可能に思える高揚した森の設定を確立している。若い両親として子供たちと遊び、土地について教え、カップルとしての典型的な懸念について口論する姿を見る方が、地平線上の大事件よりも説得力がある。
批判点
11歳でのハムネットの衝撃的な死がこの至福を打ち砕く。バックリーとメスカルの演技は、この底なしの苦痛を描写する際に大きく叫び声を上げ、甲高くなり、ジャオ監督は彼らの痛みに留まる方法が不快なほど覗き見的に感じられる。子供を失うことは壊滅的だが、あまりにも過度に実証的な演技表現で描かれると、実際にはその瞬間から観客を引き離してしまう。
(The Hollywood Reporter – Hamnet)
Roger Ebert 2.5/4点
クリスティ・ルミール氏「感覚的体験として最も優れている」
本作の美学的本能が最良の部分だ。ジャオ監督の大いに誇大宣伝された5作目の映画である。ウィリアム・シェイクスピアとその妻が息子の喪失をどう乗り越えたかについてのフィクション化された物語は、映画祭の観客を感情的に圧倒し、視聴者や批評家を涙の海に残してきた。特にジェシー・バックリーの演技は、その生々しい強度で絶賛を受けている。息子の母親である私は『ハムネット/HAMNET』に身構えていたが、実際には絶対的な残骸になるとは思っていなかった。しかし、そうはならなかった。本作は主要なプロットポイントが所定の位置に収まる前の、感覚的体験として最も優れている。
評価点
撮影監督ウカシュ・ジャル、作曲家マックス・リヒター、音響デザイナーのジョニー・バーンと協力し、ジャオ監督はあらゆることが可能に思える高揚した森の設定を確立している。アグネスとウィリアムの出会いは生き生きとして自由に感じられ、若い両親として子供たちと遊び、土地について教える姿を見る方が、訪れる大きな出来事よりも説得力がある。
批判点
本作の『ハムレット』との繋がりが問題だ。原作も映画も、シェイクスピアが息子の死に対する悲しみを処理する手段として彼の最も偉大な戯曲を書いたことを示唆している。時にはあまりにも明白で唸らせるような方法で見せられる。ウィリアムが川の端に立って有名な「生きるべきか、死ぬべきか」のスピーチをする場面などがその例だ。
Vulture (New York Magazine) 100点
ビルゲ・エビリ氏「ここ数年で最も感情的に心を打ち砕く映画」
本作は壊滅的で、おそらくここ数年で見た中で最も感情的に心を打ち砕く映画だ。『ノマドランド』監督クロエ・ジャオが構想した『ハムネット/HAMNET』は、時に耐え難いほど感情的に生々しい。ジェシー・バックリーはシェイクスピアの妻アグネスと彼の子供たちの母親として英雄的な演技を披露しているが、提示されているように、彼女は私たち全員の母親のような存在だ。地に足のついた、ほとんどシャーマン的な精神を持つ女性が、息子ハムネットの死を受け入れることを余儀なくされる。
評価点
メスカルについては、死んだ息子を最初に見たときの彼の反応が、私が今まで見た中で最高の演技の一部だと言える。後に『ハムレット』の「尼寺へ行け」のスピーチのリハーサルを中断し、自ら唸るような自己嫌悪で演じる場面でも同様だ。彼は世界で最も有名な戯曲を即座に説得力を持って再解釈してみせる。アグネスはウィリアムが十分に悲しんでいないと非難するが、メスカルは彼のためらいの下に痛みの海があることを確実に見せてくれる。
批判点
映画のテーマの一部は万人に受け入れられるものではないかもしれない。女性的な要素や影の部分を中心に据えた描写は、一部の観客にとっては理解しにくい可能性がある。しかし、それこそがこの映画の啓発的な部分であり、スクリーン上でこのように中心的に描かれるのを見ることは稀だ。
個人的な感想評価
語る舌を失うほどの衝撃。
シェイクスピアについては何となくハロルド作石の「7人のシェイクスピア」でほんの少し知っている程度で、彼の生み出した作品についてはほとんど何も知らない状態で視聴した。
クロエ・ジャオ監督はシェイクスピアを”あの有名なシェイクスピア”として扱わず、若き劇作家が森の魔女と呼ばれた自然を愛する女性と恋をして家族となり、子を失うと言う壮絶な経験から生み出したハムレットと呼ばれる物語が最後に描かれるシンプルな展開になっているため、見やすくわかりやすい。
何より演技が素晴らしいため、彼らがどのような感情で何を想い発言し行動しているかが分かるため、すべての演者に対して感情移入して、共に物語を歩む映画経験ができた。
演出は生々しさが残るほどに残酷に描かれるため良くも悪くも視聴者の心を強く揺さぶってくる。特に喪失や悲しみのシーンにとても効果的で心をかき乱されるため心の疲弊感は強いが、逆にそれほど多くはない小さな希望や愛に気付くほんの小さな出来事に死ぬほど共感する作用があるようで、ラストの温かい涙を見た時にアグネスと同じ涙が自分にも伝ってしまうほどに大泣きしてしまった。
信じられないほどにめちゃくちゃ入り込みすぎて疲れた。
できればもう一度、ハムレットの劇部分だけもう一回見たい。シェイクスピアが厳選した残したセリフの意味とかもっと深く学びアグネスの涙の真意にまで辿り着きたい。
クロエ・ジャオ監督は本作で、喪失と創造という普遍的テーマを驚くべき視覚美と感情の生々しさで描き切った。批評家たちが「感情的に心を打ち砕く」と表現するのも納得の、容赦ない悲しみの描写だ。特に注目すべきは、ジェシー・バックリーの圧倒的な演技だろう。彼女は母親としての愛、喪失の苦悶、そして最終的な解放を、一切の装飾なしに体現している。一方で、ポール・メスカルは静かに燃える悲しみを内に秘め、芸術へと昇華させる父親の姿を繊細に演じた。二人の対照的な悲しみの表現こそが、本作の核心だ。ジャオ監督の叙情的な映像美は賛否両論を呼ぶかもしれないが、芸術が痛みを癒す力を持つというメッセージは、観る者の心に深く刻まれる。本作は単なる伝記映画ではなく、人間の悲しみと再生についての詩的な瞑想なのだ。
まとめ
この記事では、映画『ハムネット/HAMNET』のあらすじ結末ネタバレから海外の感想評価までを紹介した。
16世紀のシェイクスピア一家の悲劇を描いた本作は、公開前から大きな期待を集めていた。クロエ・ジャオ監督が『ノマドランド』以来のヒューマンドラマに回帰し、ジェシー・バックリーとポール・メスカルという演技派俳優が主演を務めるという組み合わせが注目されたのだ。
物語は、若きウィリアムとアグネスの恋愛、結婚、子育て、そして11歳の息子ハムネットの突然の死という悲劇を描く。夫婦は同じ喪失を経験しながらも、全く異なる方法で悲しみに向き合う。アグネスは感情を生々しく表出させ、ウィリアムは沈黙の中で苦しみ、やがてそれを『ハムレット』という芸術作品へと昇華させていく。
海外では圧倒的な高評価を獲得した。IMDb8.1点、Rotten Tomatoes批評家86%・観客93%、Metacritic84点という数字が、その完成度の高さを物語っている。トロント国際映画祭では観客賞を受賞し、2026年ゴールデングローブ賞ではドラマ部門作品賞と主演女優賞を獲得した。
批評家たちは、ジェシー・バックリーの「英雄的」「驚異的」「圧倒的」な演技を絶賛し、ポール・メスカルの繊細で内省的な演技も高く評価した。クロエ・ジャオ監督の叙情的な映像美と、喪失から芸術が生まれる過程を描いた物語構成も称賛された。一部の批評家は、悲しみの描写が過度に演劇的で覗き見的だと指摘したが、多くの観客は本作を「今年最高の感動作」として受け入れた。
本作は、シェイクスピアという歴史的人物を通じて、喪失、悲しみ、そして芸術の癒しの力という普遍的なテーマを描いた作品として、長く記憶されるだろう。










