
「事実は小説よりも奇なり」映画よりも凄かった『Roofman』事件と物語の違いと比較、現在の彼らの話やトリビアなどを紹介。
映画『Roofman』は実話を基にしているが、いくつかの重要な脚色がある。デレック・シアンフランス監督は「もしこれを純粋なフィクションとして書いていたら、私は最悪の脚本家だっただろう」と語るほど、実際の出来事は奇想天外だった。
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映画で変更・脚色された部分
リー・ウェインスコットの設定(最大の変更)
映画で最も大きく変更されたのは、リー・ウェインスコット(キルスティン・ダンスト)の設定だ。
映画での描写:
- トイズ・アール・アスの従業員として働いている
- ジェフリーが防犯カメラで彼女を見て一目惚れする
- 店内で彼女のシフトを勝手に変更して助ける
実際の出来事:
- リーは店で働いておらず、2人は教会で初めて出会った
- ジェフリーが店で彼女を見たという設定は完全な創作
この変更により、映画では2人のロマンスがより劇的になったが、実際の出会いはもっとシンプルだった。監督は「リーを店員にすることで、両キャラクターが実際よりも愚かに見えてしまった」と後に語っている。
スティーブの役割
映画での描写:
- レイキース・スタンフィールド演じる陸軍第82空挺師団の戦友
- 偽造パスポート入手を手伝う重要なキャラクター
- ジェフリーに「身を潜めろ」とアドバイスする
- 5万ドルの支払いで新しい身分証明書を用意する
実際の出来事:
- 偽造書類を作る人物は実在したが、マンチェスターは本名を明かさなかった
- スティーブの役割の大部分は創作または大幅に変更されている
- 実際の人物との関係性や詳細は不明
トイズ・アール・アス強盗の動機
映画での描写:
- スティーブへの5万ドルの支払いのために強盗を決行
- 偽造パスポートを手に入れて国外逃亡する明確な計画
実際の出来事:
- 実際の動機は明確になっていない
- 大金を手に入れて国外逃亡する計画だったと推測されているが詳細不明
- スティーブとの取引は創作の可能性が高い
隠れ家の設定
映画での描写:
- トイズ・アール・アスの自転車売り場の裏のみに潜伏
- 6ヶ月間ずっと同じ場所に隠れる
実際の出来事:
- トイズ・アール・アスと隣接する閉店したサーキット・シティの両方を使用
- 2つの店の間に秘密の扉を作っていた
- クリスマスシーズンの混雑時にはサーキット・シティに移動
- サーキット・シティでは階段の下に部屋を作り、壁を塗り、映画ポスターを貼り、DVDを観て過ごしていた
映画ではストーリーを簡潔にするため、トイズ・アール・アスのみに絞られた。
クライマックスの強盗シーン
映画での描写:
- リーのシフトを変更して彼女を遠ざけたつもりだった
- 強盗中にリーが現れ、マスクの下のジェフリーを認識する劇的な場面
- リーとの感情的な対峙
実際の出来事:
- このシーンは大幅に脚色されている
- リーが実際に強盗現場にいたかどうかは不明
最初の逮捕(プロローグ部分)
映画での描写:
- 娘の誕生日パーティーで警察が到着
- 逃走を試みるが捕まる
実際の出来事:
- 同じ日に2軒のマクドナルドを強盗した
- 2軒目で従業員がサイレントアラームを作動させた
- 警察の地道な捜査の結果逮捕された
信じられないが実話の部分
驚くべきことに、最も奇想天外に見える出来事の多くがすべて事実である。
屋根からの侵入方法
- 40件以上のマクドナルドや飲食店を屋根から侵入して強盗
- この手口で「ルーフマン(屋根男)」という異名を得た
- 完全に事実
従業員への異常な優しさ
- 冷凍庫に閉じ込める前に、従業員が防寒着を着ているか確認
- 着ていなければ自分のコートを渡す
- カリフォルニア司法省スポークスマン、マイク・ヴァン・ウィンクル氏は「彼に強盗された多くの人が、彼が非常に良い人で、本物の紳士に見えたことに驚いた」と語っている
- すべて実話
トイズ・アール・アスでの生活
- ベビーフード、キャンディ(特にピーナッツM&M)を食べて生活:事実
- ベビーモニターを店中に設置して従業員を監視:事実
- 夜中に店内を自由に歩き回る:事実
- 自転車売り場の裏に隠れ家を作る:事実
- リモコンカーを屋上で遊ぶ:事実
- 店内で自転車に乗って運動:事実
教会での活動と偽名
- 「ジョン・ゾーン」という偽名を使用:事実
- 「秘密の政府工作員」と偽る:事実
- クロスローズ長老派教会に通う:事実(映画も実際の教会で撮影)
- リーの娘たちにおもちゃのプレゼントを持ってくる:事実
- 教会のおもちゃドライブに誰よりも多く寄付:事実
歯科医院への放火
映画で最も信じられないシーンの一つだが、これも事実である。ジェフリーはキャンディばかり食べて虫歯になり、歯科治療を受けた。その後、歯科記録から身元がバレることを恐れ、実際に歯科医院を全焼させた。普段は慎重で巧妙な強盗だった彼にとって、これは大胆な行動だったが、計算されたリスクだった。
脱獄方法
- 刑務所の金属工場で4年間働きながら計画を練った
- 黒く塗装した合板の台を作成
- 配達トラックの底に隠れて脱出
- 雨の日を選んで実行(犬に嗅ぎつけられにくくするため)
- すべて事実
中古車の購入
- リーの娘リンジーのために中古車を現金で購入
- 無謀な試乗をして家族を驚かせる
- 事実
リーの協力による再逮捕
- リーが警察に協力してジェフリーを自宅に呼び出す
- リーのアパート前で警官隊に逮捕される
- 事実
トラック運転手の本人出演
映画のエンドクレジットにも登場するトラック運転手チャールズ・カミングスは、実際にジェフリーの脱獄を無意識に手助けした本人が演じている。監督が「誰があなたを演じますか?」と聞くと、カミングスは「私自身だと思います」と答え、そのまま採用された。
監督と本人のコメント
デレック・シアンフランス監督
「もしこれを純粋なフィクションとして書いていたら、私は最悪の脚本家だっただろう。実際の出来事があまりにも奇想天外で、むしろ現実味を持たせるためにトーンダウンする必要があった」
監督はジェフリー・マンチェスター本人と数百時間の電話で話し、詳細を確認した。電話は15分ごとに切れ、常に監視され録音されていた。「ある時点で、ジェフは私に作り話をしているだけではないかと思い始めた。彼は私を騙しているのか?と疑問に思った」と監督は語る。そのため、リー・ウェインスコット本人や牧師ロン、その他の関係者全員にも取材を行い、事実確認を徹底した。
チャニング・テイタム
「ジェフと電話で話すと、彼は最も温かい人物だ。9年間を独房で過ごしたのに、電話では彼があなたの世話をしてくれるような感じだ。本当にそうなんだ。彼は楽観的で、出所後の夢や計画をたくさん持っている」
タタムは「もし私がこれをフィクションとして書いたら、私たちは地球上で最悪の脚本家になるだろう」という監督の言葉を繰り返し語っている。
ジェフリー・マンチェスター本人
マンチェスター本人は映画製作に全面協力し、タタムやシアンフランス監督と長時間話した。当初、タタムがキャスティングされたと聞いて「もっと不細工な人を起用する必要がある」と文句を言ったが、タタムと話すうちに「タタムと私には共通点がたくさんある。両方とも非常に活動的で、両方ともディフェンシブエンドをプレーした。そして両方とも非常にハンサムだ」と語るようになった。
その他の重要な事実
現在の状況
- ノースカロライナ州ローリーのセントラル刑務所に服役中
- 2009年と2017年にさらに2回脱獄を試みた
- 仮釈放資格:2036年(その時65歳)
- 本人は「これ以上脱獄する計画はない」と主張
リー・ウェインスコットのその後
- 事件発覚後に一度だけ刑務所のジェフリーを訪問
- その後再婚した
- 映画製作にあたり、シアンフランス監督の取材に協力
- エンドクレジットに実際のリーの映像が登場
映画の真実性へのこだわり
- 実際のクロスローズ長老派教会で撮影
- 関係者の多くにビット役で出演を依頼
- エンドクレジットで実際のジェフリー・マンチェスターのニュース映像を流す
- 関係者の実際のインタビュー映像を流す
- これにより映画の描写と現実との対比を示している
時代考証のミス
映画内でジェフリーとディーがハリー・ポッターのレゴセットを組み立てているシーンがあるが、そのセットは2023年に発売されたもので、物語の舞台である2004年には存在していなかった。これは製作側のミスである。
まとめ
映画『Roofman』は主要な設定(リーの職業、スティーブの役割、隠れ家の数)を変更しているものの、最も信じられないような出来事の大部分は実話である。歯科医院の放火、従業員への優しさ、トイズ・アール・アスでの奇妙な生活、「秘密工作員」という嘘、すべてが本当に起きたことだ。
監督が「トーンダウンが必要だった」と語るように、現実があまりにも奇想天外だったため、映画化にあたって信憑性を持たせることが最大の課題だったのである。エンドクレジットの実際の映像は、この信じられない物語が事実であることを観客に示す重要な役割を果たしている。
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