映画『サムシング・ハプンズ・トゥ・ミー』完全ネタバレ解説と海外の感想評価まとめ

風変わりなドラマから緊迫のメタ的スリラーへと変貌する意欲作として注目を集めた映画『サムシング・ハプンズ・トゥ・ミー』(原題: Que nadie duerma)の結末あらすじのネタバレと海外の感想評価をまとめて紹介する。本作は2023年10月22日に第68回バジャドリッド国際映画祭で世界初公開された、スペイン・ルーマニア合作のドラマ・スリラー映画だ。

物語の舞台はマドリード。IT技術者として働く中年女性ルシアが会社の倒産により失業し、タクシー運転手として新たな人生を歩み始める。プッチーニのオペラ「トゥーランドット」に魅了され、隣人の俳優ブラウリオに恋をした彼女は、次第に現実と妄想の境界が曖昧になっていく。

ドラマスリラーとして注目を集めた映画『サムシング・ハプンズ・トゥ・ミー』は、アントニオ・メンデス・エスパルサ監督がスペインで初めて撮影した長編作品となった。監督は2012年にカンヌ映画祭批評家週間でグランプリを受賞した『Aquí y allá』や、2017年にインディペンデント・スピリット・アワードのジョン・カサヴェテス賞を受賞した『Life and Nothing More』で知られる実力派だ。本作の脚本はメンデス・エスパルサとクララ・ロケットが共同執筆し、フアン・ホセ・ミジャスの小説を原作としている。

主演のルシア役をマレナ・アルテリオ(50歳)が演じ、本作で第38回ゴヤ賞主演女優賞を受賞した。アルテリオはスペインの人気シットコム『Aquí no hay quien viva』で知られるベテラン女優だ。共演にはアイタナ・サンチェス=ヒホン、ロドリゴ・ポイソンらが名を連ねる。制作はAquí y Allí Films、Wanda Visión、Avanpostが担当し、RTVE、Amazon、Telemadridが参加、撮影地はマドリードのウセラ地区やトレドで行われた。

今回は、ジャンルの境界を自在に行き来する意欲作として注目を集める映画『サムシング・ハプンズ・トゥ・ミー』の結末について解説していこう。以下の内容は本編の結末の重大なネタバレを含むため、必ず視聴してから読んでいただきたい。

『サムシング・ハプンズ・トゥ・ミー』あらすじ結末ネタバレ

ここから先は『サムシング・ハプンズ・トゥ・ミー』の核心である重大なネタバレを含む。

本作は、マドリードに暮らす30代のIT技術者ルシアが、会社の倒産を機に人生を見つめ直し、やがて現実と妄想の狭間で狂気へと堕ちていく姿を描いた心理スリラーである。監督のアントニオ・メンデス・エスパルサは、日常の孤独と人間の脆弱性を丁寧に描きながら、観客を予測不可能な展開へと誘っていく。

失職と孤独な日常

マドリードのIT企業でソフトウェア開発者として働く独身女性ルシアの日々は退屈で特別な出来事もない日々の繰り返しだった。唯一の家族は認知症を患う高齢の父親、介護士を雇って父の世話をしてもらっている。母はルシアの10歳の誕生日に自殺した(今もトラウマになっている)

ある日、勤務先の会社が倒産し全従業員が解雇されたのだ。帰宅途中、ルシアはタクシー運転手と会話を交わした。その運転手もIT技術者だったが、2008年の金融危機で職を失い、タクシー運転手に転職したという。柔軟な勤務時間と自営業の自由さを語る運転手の言葉に触発され、ルシアは思い切ってタクシー運転手としての新生活をスタートさせた。

オペラとカラフへの執着

タクシー運転手になる直前、ルシアのアパートでひとつの出会いがあった。ある日、上階から響いてくる力強いオペラの旋律に魅了された彼女は、その音楽を辿って上の階へと向かった。そこで出会ったのは、自らを俳優だと名乗る魅力的な男性で、流れていた曲はジャコモ・プッチーニのオペラ「トゥーランドット」で、パヴァロッティが歌うものだった。

この男性は「カラフと呼んでくれ」と答えた。カラフとは、オペラ「トゥーランドット」に登場する、中国の王女トゥーランドットに恋をする王子の名前だ。二度目の出会いで、男性がテラスでリハーサルをしている場面に遭遇したルシアは、彼と親密な関係を持つことになった。

ある日男性がアパートを引き払ってしまったが、男性に執着していたルシアは独自に調査し男性の本名がブラウリオ・ボタスという俳優であることを突き止めてしまう。

出会い別れ、そして運命的な出会いと隠された本名を知ったルシアは徐々に妄想に囚われるようになりオペラ「トゥーランドット」の世界に自分を投影し始めると、現実世界でも王女トゥーランドットの衣装を着てタクシーを運転するようになった。やがて声楽のレッスンに通い、オペラのメロディーに浸りながら、自分とブラウリオの恋愛物語を空想していく。

ルシアは「運命によってカラフ(ブラウリオ)がいつか自分のタクシーに乗り込んでくる」という妄想を膨らませていった。この時点で、ルシアは現実と虚構の境界線が曖昧になっていく。

ロベルタとの友情

タクシー運転手として初日、ルシアは最初の乗客と出会った。この乗客との会話はルシアにとって新鮮な刺激となった。新しい人生の第一歩に興奮していたルシアは、積極的に自分の近況を語った。すると乗客も熱心に耳を傾け、ルシアについてもっと知りたいと関心を示した。

親しみを感じたルシアは、この乗客の雰囲気が亡き母に似ていると感じ心を開いた彼女は、自分の過去について打ち明け始めた。10歳の誕生日にカラスに襲われて母が亡くなったという、ルシアが作り上げた虚構の記憶を語ったのだ。乗客はロベルタと名乗り、二人はオペラについて話が盛り上がった。ルシアはブラウリオとの出会いについても語り、いつか彼が運命的に自分のタクシーに乗ってくると確信していると述べた。

この出会いをきっかけに、ルシアとロベルタの友情が芽生えた。ルシアはロベルタとの時間に安らぎを見出した。二人の交流は頻繁になり、ある時ルシアはついに「カラフ」の正体、つまりブラウリオ・ボタスの実名をロベルタに明かした。驚いたことに、ロベルタはブラウリオのことを知っていた。演劇業界で働く彼女にとって、ブラウリオは顔見知りの俳優だったのだ。

二人の絆が深まるにつれ、ルシアはロベルタにさらなる秘密を打ち明ける決意をした。それは母親の死の真実だった。カラスに襲われたという嘘を捨て、母が自殺したという現実をロベルタに告白したのだ。ロベルタは共感的に反応し、ルシアの傷に寄り添った。この理解ある態度に、ルシアはロベルタへの信頼をより一層強めていった。ルシアにとって、ロベルタは孤独な人生の中で得た貴重な親友となったのである。

復讐心の芽生え

ある夜、彼女のタクシーに乗り込んできたのは、かつての上司だった。男は酒に酔って意識を失い、ルシアがどれだけ揺さぶっても目を覚まさなかった。やむなく彼女は男を車外に引きずり出した。その時、復讐心がルシアの心を支配した。彼女は男の財布から現金を全て抜き取り、人気のない場所に男を置き去りにして立ち去った。

数日後、ショッキングなニュースが飛び込んできた。あの夜放置された元上司が、低体温症で死亡したというのだ。ルシアは男を憎んでいたものの、彼の死は重い罪悪感となって彼女の心にのしかかった。さらに追い打ちをかけるように、父親が亡くなった。

葬儀には元同僚で友人ファティマが亡くなった元上司と不倫関係にあり、その上司こそが会社を破綻させた横領事件の張本人でルシアの職と生活を奪った元凶で、信頼していた友人が密通していたという事実は、ルシアの心に深い傷を残し、彼女の精神状態はさらに不安定になっていった。

結末ネタバレ:残酷な真実と破滅

同時に、ルシアはオペラ「トゥーランドット」とカラフ(ブラウリオ)の恋物語への妄想を深めていた。現実の辛さから逃避するように、彼女は虚構の世界に没入していった。ルシアの乗客の一人、サンティアゴという男性と親密な関係を持つことになる。

ある日、レストランで食事をしているロベルタを偶然目撃したルシアは、彼女が複数の仲間と共にいることに気づいた。そのテーブルには、なんとブラウリオの姿もあったのだ。さらに街中で演劇の広告ポスターを見つけたルシアは、そこにブラウリオの名前が大きく記載されているのを発見した。演出はロベルタ、プロデューサーはサンティアゴ──ルシアがタクシーの中で親密な関係を持った、あの男だった。

不安と期待が入り混じった複雑な心境で、ルシアは劇場へと足を運んだ。幕が上がり、物語が進むにつれ、ルシアは戦慄した。舞台で演じられているのは、自分自身の人生だったのだ。主人公の名前はルシア。彼女の悲劇、彼女の孤独、彼女の妄想、そして彼女の恥ずべき行動の数々が、観客の前で笑いの種として演じられていた。

劇場の観客たちは、ルシアの個人的な苦悩と人格を面白おかしい見世物として消費し、笑い声を上げた。自分の人生が公衆の面前で嘲笑される屈辱的な光景を目の当たりにし、ルシアの心は崩壊寸前だった。信頼していたロベルタは親友などではなく、ルシアを観察し、彼女の秘密を盗み取り、それを舞台作品の素材として利用する冷酷な人間だったのだ。

サンティアゴとの親密な関係も、純粋な恋愛などではなかった。あれは演劇のリサーチの一環として、ルシアを利用しただけだったのかもしれない。そしてブラウリオ──ルシアが運命の相手だと信じていた男が、この残酷な舞台の主演を務めていた。自分への感情など一切持っていなかったブラウリオが、今や彼女の妄想と狂気を演じて観客を楽しませているのだ。

自分が「トゥーランドット」という魅惑的な中国の王女だという妄想が、ただの惨めな幻想だったことを突きつけられたルシアの心は粉々に砕けた。周囲の人間が全員、彼女を搾取し、利用し、嘲笑していた。この裏切りの発覚は、ルシアの最後の理性を破壊した。

復讐心に突き動かされたルシアは、ロベルタとブラウリオを殺害した。具体的な殺害シーンの描写は曖昧だが、彼女は二人を残忍な方法で命を奪った。

殺人を犯した後、ルシアは自らの命を絶とうとテラスへ向かった。飛び降り自殺を決意し、縁に立った彼女の目に、一羽のカラスが飛び込んできた。その瞬間、幼い頃の記憶が鮮明に蘇った。母親が同じように、このテラスから身を投げて命を絶ったのだ。ルシアが作り上げた「カラスに襲われて死んだ」という虚構の記憶の裏にある、真実の光景。

母の最期を追体験するかのような状況で、ルシアは何かを感じた。過去との繋がり、母の絶望、そして自分自身の運命。カラスの姿を見つめながら、ルシアは心を変えた。彼女はテラスの縁から離れ、自殺を思いとどまった。

映画はここで幕を閉じる。ルシアの最終的な運命は明示されないが、搾取され続けることに疲れ果てた彼女が、同時に生き延びる選択をした、母とは違う道を。

Film Fugitives – Something Is About To Happen Ending Explained

批評家レビュー

海外の専門批評家による『サムシング・ハプンズ・トゥ・ミー』の詳細な評価を紹介する。ジャンルを超越する大胆な演出と、中年女性の再生を描いた挑戦的な物語が、批評家たちの間でどのように受け止められたのか。この映画の多角的な魅力と課題を理解できるはずだ。

Washington City Paper 高評価

エラ・フェルドマン氏「アントニオ・メンデス・エスパルサの映画は、風変わりなドラマコメディから、メタテクスチュアルなスリラーへと変貌を遂げる」

この作品は表面的には中年女性の職探しの物語だが、実際には『タクシードライバー』と共通する深い心理的テーマを扱っている。失業したルシアがタクシー運転手として再出発する過程で、彼女の内面世界と現実が交錯していく様子を、監督は巧みに描き出した。主演マレーナ・アルテリオの演技は恐れを知らず、観客を画面に釘付けにする力を持つ。風変わりな日常描写から始まる物語が、次第に緊張感を増していき、予測不可能な展開へと突入していくのである。

評価点
ジャンルの境界を曖昧にする大胆な演出と、主演女優の圧倒的な存在感。日常と非日常を行き来する構成が観客を飽きさせない。

批判点
メタ的な要素が時に過剰で、物語の流れを妨げる瞬間がある。

(Washington City Paper – Something Is About to Happen)

Cineuropa 高評価

批評家「この作品は単一のジャンルに満足せず、コメディとドラマ、ミステリーと奇妙さ、都市型ロードムービーと復讐劇の間を行き来する」

アントニオ・メンデス・エスパルサ監督にとって母国スペインで撮影した初の長編映画となる本作は、フアン・ホセ・ミジャスの同名小説を映像化したものだ。主人公ルシアは、IT企業の倒産により突然職を失った成熟した女性で、タクシー運転手として人生の再出発を図る。彼女はプッチーニのオペラ『トゥーランドット』を愛する階上の隣人に魅了され、想像力に駆られて自らを中国皇帝の神話的な娘として装う。マドリードの写真映えしない地区を舞台にした、現代版ドン・キホーテとも言える物語である。

この映画は、主人公が実際に行うことと想像すること、彼女が生き、感じ、考え、個人的・家族的に抱えているものの間を行き来する。ミジャスの文学作品特有のメタフィクション的な遊びを踏襲し、現実とフィクションを飛び越え、作家という存在そのもの��他者の人生を貪る飽くなき残酷な吸血鬼であり、ユートピアの捏造者であることまでも問いかけるのである。

評価点
文学的な深みを持ちながら、視覚的にも魅力的な作品。マレーナ・アルテリオの演技が映画全体を支えている。

批判点
複数のジャンルを横断するがゆえに、物語の焦点が定まらない瞬間がある。

(Cineuropa – Something Is About to Happen)

Espinof 3.5/5

ホルヘ・ロセル氏「中年女性の願望とアイデンティティへの期待に挑戦する大胆な映画」

この作品が描くのは、専業主婦と成功したプロフェッショナルという二元論から遠く離れた、中年女性の複雑な内面世界である。ルシアという主人公は、社会が女性に押し付けるステレオタイプを拒絶し、自分自身の欲望と向き合おうとする。失業という危機をきっかけに、彼女はタクシー運転手という職業を選び、マドリードの街を走りながら新たな自己を模索していく。この過程で浮かび上がるのは、現代社会における女性の立ち位置と、彼女たちが直面する多様な課題だ。監督のメンデス・エスパルサは、安易な答えを提示せず、観客に問いかけ続ける姿勢を貫いている。

評価点
中年女性を主人公にした作品として、ステレオタイプを打ち破る革新的なアプローチ。社会的テーマを娯楽性と両立させている。

批判点
一部のシーンが説明的すぎて、観客の想像力を制限してしまう。

(Espinof – Something Is About to Happen)

El País 高評価

ハビエル・オカーニャ氏「社会的かつリアルな視点を持ちながら、心理的、さらには文化的な側面まで掘り下げる映画」

この作品は、恍惚、繊細さ、共感、愛、優しさ、復讐、狂気といった多様な感情のトーンを融合させることに成功している。メンデス・エスパルサ監督は、ルシアという女性の日常を通して、現代マドリードの社会構造と個人の心理状態を同時に描き出した。彼女がタクシーを運転しながら出会う人々は、それぞれが異なる社会階層や価値観を代表しており、その交流を通じてルシアは徐々に変化していく。オペラ『トゥーランドット』のアリア「誰も寝てはならぬ」が象徴するように、この物語は目覚めと覚醒のプロセスでもあるのだ。

評価点
社会批評と心理描写のバランスが絶妙。音楽の使用が効果的で、物語に深みを与えている。

批判点
野心的すぎるがゆえに、一部の観客には難解に感じられる可能性がある。

(El País – Something Is About to Happen)

個人的な感想評価

問題なく最後まで楽しめた。

落ちぶれたおばさんが搾取される側から脱却して個人事業主になってさまざまな出会いを経て、人に執着して言動に左右され、盲信、執着、裏切り、絶望、そして復讐、最後に自殺、、、を思いとどまるという流れはグッときたし涙出そうになった。むしろスカッとしたかな。日本人にはグッとくる人多そうな気がした。

街の小さな片隅でどん底に落ちた中年女性の危機を『タクシードライバー』や『ジョーカー』のように前半は明るく、中盤から執着、後半に妄想、幻覚、そして殺人という展開もあり期待ではあるが、テンポも悪くなく退屈することなく、ほのぼのドラマからの急激な落下に身悶えてエンディングを迎えることができた。

妄想と現実と幻覚の行き来はFALL落下の王国を思い出した。衣装も見事で見応えはある。

ルシアの旅路は、表面的には再生の物語に見えるが、実際には彼女の内面で静かに醸成される怒りと復讐心の物語なのもよかったな。

まとめ

この記事では、映画『サムシング・ハプンズ・トゥ・ミー』の海外批評家による詳細な評価を紹介してきた。本作は2023年にスペインとルーマニアの合作として制作され、アントニオ・メンデス・エスパルサ監督がフアン・ホセ・ミジャスの小説を映画化した意欲作だ。失業した中年女性がタクシー運転手として再出発し、やがて復讐へと向かう物語は、『タクシードライバー』の現代版として大きな注目を集めた。

Rotten Tomatoesでは批評家スコア100%という高評価を獲得し、主演マレーナ・アルテリオはゴヤ賞主演女優賞を受賞するなど、作品の質の高さが証明された。批評家たちは、ジャンルの境界を曖昧にする大胆な演出、社会批評と心理描写のバランス、そして主演女優の圧倒的な存在感を高く評価した。一方で、複数のジャンルを横断する野心的な構成が焦点を散漫にする瞬間があるという指摘もあった。海外では、中年女性を主人公にした挑戦的な作品として、映画史に新たな一石を投じた問題作と受け止められているのである。

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