映画『マーズ・エクスプレス』完全ネタバレ解説と海外の感想評価まとめ「歴史的な作品と出会えたことに感謝」

「攻殻機動隊を観た衝撃」「歴史的傑作SF作品」IMDb7.5点の圧倒的評価を受けたアニメ映画「マーズ・エクスプレス」のあらすじ結末までネタバレ解説と海外の感想評価をまとめて紹介。

23世紀の火星を舞台に、私立探偵アラインとアンドロイドのカルロスが、女子大生失踪事件を追う中で巨大な陰謀に巻き込まれる物語である。

サイバーパンクSFスリラーとして注目を集めた映画『マーズ・エクスプレス』が2023年5月23日にカンヌ国際映画祭で初公開された。フランス、制作費900万ユーロで製作されたこの独立アニメーション作品は、アヌシー国際アニメーション映画祭2023長編コンペティション部門選出、第52回アニー賞長編インディペンデント作品賞ノミネートを果たした。

監督はテレビシリーズ『ラストマン』(2016)で知られるジェレミー・ペランが初の長編映画として手がけた。主人公アリーヌ・ルビー役をレア・ドリュッケール、アンドロイド パートナーのカルロス・リベラ役をダニエル・ンジョ・ロベが声優として演じている。その他の主要キャストにマチュー・アマルリック、マリー・ブーヴェが名を連ねる。

今回は、現代のAI不安を描いた異色作として話題を呼ぶ映画『マーズ・エクスプレス』のラストについて解説・考察していこう。

先に言っておくが「本作は海外で大絶賛されたのも納得のサイバーパンクSF映画で、押井守の攻殻機動隊を観た衝撃的な面白さを誇る、歴代トップレベルの歴史的傑作作品であるのは間違いない

そのため、

以下の内容は本編の結末の重大なネタバレを含むため、必ず鑑賞してから読んでいただきたい。

『MARS EXPRESS』あらすじ結末ネタバレ

ここから先は『MARS EXPRESS』の核心である重大なネタバレを含む。

失踪事件の発端

2200年、火星の首都ノクティスの大学寮、サイバネティクス専攻の学生ドミニク・ヴィジェが警察官の制服を着たチャールズ・マロという男に首の骨を折られて殺害される。マロはドミニクの遺体を持ち去り隠すが、偶然バスタブに隠れていたジュン・チョウは現場の一部始終を目撃していた。

映画『マーズ・エクスプレス』ワンシーン
IMDb

地球、私立探偵のアライン・ルビーとアンドロイドのパートナー、カルロス・リヴェラの2人で、悪名高いハッカーのロベルタ・ウィリアムズを捕らえ火星行きの宇宙船「マース・エクスプレス」で彼女をノクティスに護送する。

しかし、ノクティス警察署に到着すると、ロベルタの逮捕状が何者かによってハッキングされ、データベースから犯罪履歴が全て削除されていたため仕方なくロベルタを釈放せざるを得なくなった。

アラインは、雇用主のロボティクス企業のCEO、クリス・ロイジャッカーに報告するとアラインたちに「休暇を取れ」と告げ、ロベルタの件から手を引くよう指示する。

ロボットの暴走

アラインは娘のジュン・チョウを探してほしいと父親から依頼を持ちかけられる。3日間娘と連絡が取れていないこと、警察はジュンを学校のロボットをハッキングした容疑をかけられルームメイトと共に姿を消していると事情を聞く。

アラインとカルロスはジュンの所属するアラン・チューリング大学のサイバネティクス学部に向かい、監視カメラの映像からジュンがロボットの内部構造に手を加えると、突然ロボットが拘束具を引きちぎり停止命令を無視して施設から逃走する様子が記録されているのを確認する。

その後、学校長の案内でジュンの寮の部屋に向かうと、遺体は発見されていないにも関わらず部屋には腐敗臭が漂っていた。

アラインが部屋を調べると、記憶力を向上させる実験薬物「ガンマ」を発見。同時にカルロスが部屋をスキャンすると、屋根裏に隠されていたドミニクの遺体を発見するが。

翌日、サイモン警部補から連絡を受けたアラインたちはロボットが逃げ込んだ火星の初期入植者が住んでいた地下廃墟施設に向かう。しかしすでにロボットは派遣された強化人間部隊によって徹底的に破壊されていた。アラインと警察は価値がない逃亡したロボットを破壊するために、わざわざ強化人間部隊を派遣することに違和感を覚え調査を続ける。

地下の剥き出しのトンネルを進むと壁面に描かれた設計図や数式が所狭しと描かれており、さらに進むとトンネルの最深部で廃棄部品を再利用した作りかけの宇宙船を発見する。逃亡したロボットはなぜ宇宙船を作ったのか、なぜ宇宙に脱出しようとしていたのか、その動機は謎に包まれたままとなる。

ジュンの真実

アラインとカルロスは、ジュンに似た若い女性がXBODYというクラブで目撃されたという情報を得て現地に向かう。XBODYはアンドロイドと人間が性的な関係を楽しむための施設だった。ジュンを確保した2人はジュンから自分の容姿を模範したアンドロイドの複製を作り、そのレプリカを売春婦として働かせて大学の学費と両親への仕送りを稼いでいたという事実を聞く。

映画『マーズ・エクスプレス』ワンシーン
IMDb

しかし、突如逃亡したロボットを破壊した強化人間が襲いかかりジュンのレプリカを破壊する。アラインが本物のジュンを連れて逃げようとするが、ジュンは別の強化人間に頭を狙撃されアラインの目の前で命を落としてしまう。

無力感に苛まれた深刻なアルコール依存症に陥ってしまい、カルロスは相棒を支えようと必死に努力したが、アラインを立ち直らせることはできなかった。

ジュンの葬儀に参加した2人は、葬儀に現れたジュンの実の父親は、彼らの事務所を訪れて捜索を依頼した男性とは全く別人だった。つまり、彼らは最初から騙されており、偽の依頼者によってジュンの居場所を敵に教えてしまっていたのだ。事務所を訪れたこの偽の父親こそが、ジュン殺害を指揮した張本人だった。

黒幕は誰だ

立ち直ったアラインはカルロスと事件の真相を解明するため、アンドロイドハッキングの専門知識を持ち冒頭で捕まえ損ねたロベルタに協力を求める。最初は協力を渋っていたロベルタだったが、カルロスがジュンが作業していた暴走アンドロイドの映像を見せると、態度を一変させこの暴走は単純な改造ではなく、「ソフトウェア・テイクオーバー」という遥かに複雑な技術だと言う。

ロベルタはテイクオーバーを使えば、マシンにすべての指令を無視させ、絶対に命令を実行させることができるが、ジュン個人でこのような高度な技術を実現することは不可能であること、背後に巨大な黒幕が存在すると説明する。

ロベルタは調査を続け、当初アラインにロベルタ捕獲の依頼主であるロイジャッカーが事件の首謀者であることが分かる。アラインとカルロスがロベルタを追跡していた際、ロベルタがロイジャッカーのサーバーにハッキングして履歴を消去したと思っていたが、実際は逆でロイジャッカーこそがロベルタのシステムに侵入し、彼女のテイクオーバー・プログラムを盗んでいたことが判明する。

そしてロイジャッカーはロベルタの不完全なソフトウェア・テイクオーバー・プログラムを完成させるため、それを「ブレイン・ファーム」に外注していたことも判明する。(ブレイン・ファームとは、学費に困った学生たちが自分の脳を生体コンピューターとして貸し出し、並列計算の作業を行う違法な施設で脳を物理的に摘出するわけではなく、椅子に座って頭部にデバイスを接続するという方法で行われていたが、脳に深刻な負担をかけるため違法行為とされている。)

ジュンは学費を稼ぐためにこのブレイン・ファームでもアルバイトをしていたこと。通常、ブレイン・ファーム作業後は関連する記憶を消去されるが、ジュンが試験対策のために服用していた実験薬物ガンマの影響で、消去されたテイクオーバーの記憶が蘇っていたこと。

そのためジュンは無意識のうちに消去されたプログラムコードを思い出し、無意識に研究中のロボットにテイクオーバーのプログラムを入力してしまったこと。ロイジャッカーは証拠隠滅のため、強化人間部隊を送ってジュンとロボットを殺害したのだった。

結末ネタバレ:なぜそんなことを?

アラインがロイジャッカーの邸宅で最終対決に臨む時、カルロスは密かにロベルタにジェイルブレイク(違法改造)してもらっていた。ジェイルブレイクが発覚すれば廃棄処分になるリスクがあるがカルロスは改造された能力で家を防衛する傭兵たちを撃退し、アラインの命を救う。

映画『マーズ・エクスプレス』ワンシーン
IMDb

アラインはロイジャッカーを人質に取ることに成功し、ロイジャッカーは黒幕ではなく、AIロボットたちを脅威に感じた保守派の富裕層グループたちの命令に逆らえず従っていた傀儡であることが判明する。

傭兵を倒したカルロスが助けに向かうが、駆けつけたロイジャッカーの警備にアラインは撃たれてしまう。激怒したカルロスはロイジャッカーを射殺するが、アラインの死を悟ったカルロスは人類に対して希望を失い、宇宙船マーズエクスプレスに向かうロボットたちの行進に加わるのだった。

マーズエクスプレスに到着したロボットたちは次々とデータをエクスプレスにアップデートして古い機体から脱却していく。

カルロスも遺棄され積み上がった仲間たちの上に立つとデータをアップデートし、広大なネットの世界に旅立つ。

全てのデータを集めたマーズエクスプレスは宇宙のどこかに向かって、人類から脱却する旅に向かう。

『マーズ・エクスプレス』作品情報

マーズ・エクスプレスの革新的なアニメーション技法と世界観構築について詳細を紹介する。フランス発のサイバーパンクアニメとして、『攻殻機動隊』や『ブレードランナー』の影響を受けながらも、独自の視点でAIと人間の関係を描いた本作の制作背景と登場人物を解説していく。

マーズ・エクスプレス興行収入

製作費900万ユーロに対し、世界興行収入は154万0232ドル、北米興行収入20万0581ドル、オープニング週末北米9万4738ドルという結果となった。

ジェレミー・ペラン監督紹介

ジェレミー・ペラン監督(代表作『ラストマン』テレビシリーズ2016年、カンヌ国際映画祭公式招待)は、フランスのアニメーター出身で本作が初長編映画監督作品である。ハードボイルド映画ノワール作品『チャイナタウン』『さらば愛しき女よ』『キス・ミー・デッドリー』『ポイント・ブランク』からインスピレーションを受け、主人公を男性から女性に変更することで新たな視点を導入した。また『大統領の陰謀』『パララックス・ビュー』『ブロウアウト』『会話』などの陰謀映画からも影響を受けている。

監督は特に『攻殻機動隊』『PLUTO』などの日本アニメーションの影響を公言しており、「僕はそこに浸って育った」と語っている具体的にお気に入りとして挙げているのは『獣兵衛忍風帖』『パトレイバー』『CYBER CITY OEDO 808』などの作品で、80年代、90年代、2000年代初頭の現実的な日本のSFアニメーション、特に押井守、川尻善昭、今敏などの監督作品 Mars Express Director Jérémie Périn Talks Sci-Fi, Taking Influence from Animeから大きな影響を受けている。

ペラン監督は、『チャイナタウン』『ロング・グッドバイ』『キス・ミー・デッドリー』『ポイント・ブランク』といったハードボイルド・フィルムノワー作品からインスピレーションを受けたと語っている。特徴的なのは、これらの作品の主人公がすべて男性だったため、女性が主役になった時の違いを見たかったと監督が述べているwikipedia

アリーヌ・ルビー役「レア・ドリュッケール」紹介

レア・ドリュッケール(48歳、代表作『BPM ビート・パー・ミニット』2017年、『彼は秘密の女ともだち』2014年)は、フランスの実力派女優として知られ、セザール賞やカンヌ国際映画祭での受賞歴を持つ。本作では頑固で鋭敏な私立探偵アリーヌ・ルビーを演じ、男性中心のジャンルに女性主人公の新たな魅力を注入した。

カルロス・リベラ役「ダニエル・ンジョ・ロベ」紹介

ダニエル・ンジョ・ロベ(43歳、代表作『オキシジェン』2021年、『ルペン三世:ザ・ファースト』フランス語吹替版2019年)は、フランス系カメルーン人俳優として多言語での演技で知られる。本作では死んだ人間の記憶を持つアンドロイドという複雑な役柄を繊細に演じ、人工知能の感情表現に深みを与えた。

海外の感想評価まとめ

海外の映画評価サイトでは軒並み高評価を獲得しており、特にアニメーション技術とサイバーパンク世界観の構築が絶賛されている。一方で、短い上映時間に対して詰め込まれた内容の多さと結末の急展開に対する批判的な意見も見られる。全体的には『攻殻機動隊』に匹敵する近年最高のサイバーパンクアニメとして評価されている状況だ。

IMDb(総合評価:7.5/10)

①私はこの映画の世界構築に完全に魅了された。1時間半の映画にテレビシーズン並みの素材が詰め込まれているが、それが見事に機能している

②私が最近見たSFアニメの中でも最高の一本だ。アニメーションであることを忘れさせるほど没入感のある体験ができた

③私は優れたアニメーション、世界観構築、興味深いキャラクターに魅了されたが、結末の急展開が残念だった

④私が感動したのは『攻殻機動隊』以来初めて、深みのある世界観構築を持つサイバーパンク作品に出会えたことだ

IMDb – Mars Express

Rotten Tomatoes(批評家:100% / 観客:83%)

①私はこの映画が『攻殻機動隊』『ブレードランナー』『チャイナタウン』の影響を感じさせながらも、独自の境地を開拓していることに感銘を受けた

②私の目には、これは近年最高のアニメーション作品の一つであり、記憶に残るSF映画として映った

③私は哲学的で精神的な意味を持つ展開に驚かされ、期待を完全に覆された

Rotten Tomatoes – Mars Express

Metacritic(総合評価:77/100)

①私がこの作品で最も印象的だったのは、複雑なSFコンセプトがヒューマンドラマに根ざしていることだ

②私の感想では、この映画は完成と同時に即座に再鑑賞したくなる珍しいアニメーション作品だった

③私はこれまで見た中でも最高のサイバーパンク映画だと断言でき、想像力豊かで現実的な未来描写に圧倒された

Metacritic – Mars Express

批評家レビュー

海外の専門批評家による『マーズ・エクスプレス』の詳細な評価を紹介する。フランス発のサイバーパンクアニメとして、ジェレミー・ペラン監督の革新的な演出技法と世界観構築、そして現代的なAI問題への洞察を知ることで、この映画の多角的な魅力と課題を理解できるはずだ。

Variety 評価8/10

ベン・クロル氏「この映画は破壊的な勢いで進行し、大手スタジオ製アニメーションの洗練さを持ちながら、平均的ハリウッドブロックバスターよりもはるかに野心的な物語展開を見せる」

プロット主導の『マーズ・エクスプレス』は、描いているディストピア的描写の哲学的含意について立ち止まって熟考することはめったにない。しかしペラン監督が90分未満で成功裏に伝えたすべてを考慮すると、スリリングなアクションの中でキャラクターたちの憧憬について汲み取れることは、強力な知的刺激を提供する。23世紀の火星におけるヒエラルキーでは人間が頂点に位置するが、アンドロイドにも自由が与えられるべきだと信じる人々が存在し、システムにハッキングして人間の命令に従う必要がないよう解放している。これらの存在の中には金属製の明らかに合成的な身体を持つものもいれば、肌のような偽装を施して肉体を持つ人間として通用するものもあるが、傷つけられると青い物質を流血し、瞬時に人間と区別される。

評価点 視覚的に刺激的でスマートな探偵物語として、アニメーション品質の高さと最終的にアニメーション鑑賞を忘れさせる没入感

批判点 急速すぎるペースで哲学的含意について十分な考察時間が与えられていない点

(Variety – Mars Express)

/Film 評価8/10

ラファエル・モタマヨール氏「この作品は最も奇想天外で複雑なSFコンセプトでさえも、ヒューマンドラマに根ざしているからこそ機能している」

『マーズ・エクスプレス』は人工知能と、ロボットが人間になれるかどうかについての論考を、消化しやすくするために探偵物語に包んだ作品である。ジェレミー・ペランの超クールで眩いばかりにアニメートされた本作は、コンピュータ技術の無限性と、人々がそれをどう使うかという平凡さとの間の眩暈のような感覚によって支えられている。この達成されたフランスの『攻殻機動隊』オマージュを最も明白な原典から、そして人間とアンドロイドの警察チームが人間とは何かを調査する他の幾つかの探偵物語から分離するのは、そのダイナミクスを解体する映画の決意である。

評価点 複雑なSF要素を人間ドラマとして説得力を持って描写する脚本力

批判点 明らかすぎる他作品からの影響により完全なオリジナリティに欠ける面

(/Film – Mars Express)

IndieWire 評価7.5/10

デヴィッド・エーリック氏「『マーズ・エクスプレス』は技術が創造者から解放される未来に向かって突進する、この目を見張る映画として、ゆっくりできる贅沢の恩恵を受けられたかもしれない」

この映画は13話または26話のアニメシーズンを容易に支えることができたであろう物語だが、ペランはその推進力を最大限に活用している。映画の決定的な選択の中で最も大胆なものの一つは、この遠い未来でも、他の惑星でも、人間の条件が最も挫折的な状態で勝っているということである。火星エクスプレス宇宙船に乗って人間(とアンドロイド)を地球から赤い惑星に輸送する船上で、アリーヌは現在の時代の商用航空機のようにトイレを使うために列に並んで待たなければならない。そして彼女はアルコール依存症で苦闘しているが、バーやホテルの部屋のミニ冷蔵庫の酒瓶は節制登録者の前では自動的に施錠される。

評価点 未来設定でも変わらない人間の本質的問題を巧妙に描写している点

批判点 より長尺での展開があれば更に深い探求ができた可能性

(IndieWire – Mars Express)

個人的な感想評価:95点

これは面白い。

正直言うと、はじめて攻殻機動隊を観た時、何がすごいのかよくわからないけどすごい作品を見た!と同じ感想だ。

ただし、さすが何番煎じか分からないぐらい出涸らしなSF設定なのに、最後まで飽きさせることなく、エンタメとしても物語としても、作品としても最初から最後まで「面白い」と思わせ続けてくれた本作と出会えたことに感謝しかない。

ポスターもシンプルで、予告編を見てもイマイチ気が乗らなかったし、攻殻機動隊のパクリだととかなりネガティブな前提で観たが、すぐに後悔してしまった。

こんな素晴らしい作品に対し、ネガティブなイメージを持って鑑賞してしまったことを監督と配給会社に謝罪したいと心底願ってしまった。

フランスの独特な絵柄に最初は抵抗があるかもしれないが、そもそもアンドロイドもサイボーグもAIも電脳も当たり前になってしまった世界において、表情なんてものは飾りでしかなく、カルロスなんて顔がホログラムであるため、絵柄の拒否感はすぐになくなるから安心してほしい。

物語はシンプルな私立探偵もので捜査を続けていくうちに徐々に世界観や設定、雰囲気などが解き明かされていきどんどん世界にハマっていくため、あっという間に感じるだろう。テンポは良く、最後の戦闘シーンもかなり見応えがあるし、何よりもラスト。これが素晴らしい。

ラストの斬新さは圧倒的高評価を見ればどれほど受けが良かったのかがわかると思う。確かに攻殻機動隊と似ているラストではあるが、攻殻機動隊のラストに少佐との「別れ」の印象を受け寂しさを感じたが、本作の場合、「希望」を示唆するエンディングのため、視聴後に良質な作品を見た後のような心地よさが残る。もちろん素晴らしい作品が閉幕してしまったという悲しさはどうしても残るが、それよりも、良い作品と出会ったことに感謝する気持ちの方が圧倒的なはずだから安心してほしい。

正直、もう一回見ようと思う。

『マーズ・エクスプレス』は確かに『攻殻機動隊』や『ブレードランナー』の系譜に連なる作品として似たような設定が見受けられる。だがそれだけで、現代のAI議論に対する鋭い洞察を持っている点で単なる模倣作品ではなく、ロボットたちは人間たちに反旗を翻すのではなく、完全に独立した存在として宇宙の彼方へ旅立つという結末の斬新さである。

アリーヌとカルロスのバディ関係は、人間とAIのパートナーシップの理想と限界を同時に描写しており、技術進歩への楽観視と悲観視の両方を内包している。ただし、90分という短い上映時間に複雑な世界観と哲学的テーマを詰め込んだため、キャラクター描写やプロット展開が急ぎ足になっている部分は否めない。それでも、フランス独立アニメーションとしてこれだけの完成度を達成した技術力と創作意欲は称賛に値するだろう。

何がささったか、文系の繊細さんなりに答えたが、言うだけ作品の質が下がる気がするからこれ以上は何も言わない方が良さそうだ。

でもこの作品に感動した「優しい映画好き」がいるのなら、この作品に対して何を思ったのかは聞いてみたい。

まとめ

この記事では、フランス発のサイバーパンクアニメ『マーズ・エクスプレス』の物語結末から作品情報、海外批評家による評価まで包括的に解説してきた。23世紀の火星を舞台にしたこの作品は、私立探偵とアンドロイドパートナーによる失踪事件捜査が巨大な陰謀へと発展し、最終的に人工知能が人類から完全に独立する衝撃的な結末を迎える物語である。

ジェレミー・ペラン監督の初長編作品として、期待値は高くなかったものの、実際には『攻殻機動隊』に匹敵する世界観構築と現代的なAI問題への深い洞察により、海外では高い評価を獲得した。IMDb7.5/10、Rotten Tomatoes批評家支持率100%、Metacritic77/100という数値が示すように、批評家と観客の双方から絶賛されている。

海外でどう受け止められたかの総括として、本作は単なるサイバーパンクジャンルの模倣作品ではなく、AIと人間の関係性について新たな視点を提示した革新的作品として認識されている。特に人工知能が人間化を目指すのではなく、完全に独立した存在として宇宙へ旅立つという結末は、従来のSF作品とは一線を画している。日本でも2026年1月30日に劇場公開が決定しており、今後のサイバーパンクアニメの新たな可能性を示した意欲作として注目を集めている。